39 知れば迷い

池田屋事変以後、千鶴ちゃんは巡察に付いて行く機会が増えた。今日も、新八さんの組と出掛けている。

協力すると言ったものの鋼道さんの顔も知らない私は、千鶴ちゃんの分も家事を引き受ける事で

協力してる……ことにしてる。仕方ない、写真がないこの時代、会ったことがなければ知りようがない。

日が昇るのが早いこの時期、早朝はひたすら自主トレに励み、その後朝餉を作りにお勝手に向かう。

朝餉の片付け、洗濯、掃除、昼餉の支度にまた片付けをして仕上げに洗濯物畳み……と休み無く動けば、

眠くなるのも道理で。破れ物を繕いながら、ウトウト気持ちよく舟を漕ぐ。あぁ、もう限界。

畳んだ手拭いの山を枕に、瞼を閉じれば、あっけなく夢の世界へ……。



茶を頼むのを口実に千穂の部屋に来てみれば、襖を開け放したまま洗濯物抱えて寝てやがる。

長い睫が影を落とし、白い肌にほんのり色づいた頬と赤い唇が扇情的で、ふいに込み上げる劣情に苦笑する。

思わず頬を突くと、どんな夢を見ているのか淡く笑んだ口元と穏やかな寝顔に、愛おしさが募る。

正直な原田と総司が羨ましい。ようやく軌道に乗りだした組織と近藤さんを押し上げさらに上を目指す今、

色恋に現を抜かしている暇はない。暇はないのに……こいつに惚れた。


仕事も問題も次から次へと舞い込み、お偉いさんとの駆け引きめいた付き合いに金策に組の統率。

厄介事ばかりの毎日に、療養に飽きた総司の悪戯が加われば、眉間の皺が取れる間もない。

そんな時、ちょこまかと良く働き笑顔を振りまく千穂を見ると、自然と心が凪ぐ。

だがちょっと、愛想を振り撒きすぎじゃねぇか? 本人は全く気付いちゃいないが、最近やたらと

勝手場や井戸に行く隊士が多い。助かるわなんて言われて、鼻の下伸ばして洗濯を手伝う奴が後を絶たねぇ。

幹部や俺が軽く睨めば慌てて散るが、そんな気苦労も知らず、狼の巣でイキイキと働いて。

働きすぎて……昼寝か。ったく、お人好しにも程がある。休まず甘えず愚痴もこぼさねぇ。

「甘えろと言っといて、甘えてんのは……俺か」


長州の連中がまた怪しい動きをしている今、本当は安全な屯所でずっと守っていてやりたいが……。

巡察についていく雪村を送り出した後のこいつが少し寂しそうな顔をしているのを、何度か目にしている。

外出許可、出してやるか。


土方いつになく優しい目で千穂を見やると、そっと額に口付け、部屋を後にした。





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