22 in おだいどこ

冷蔵庫、洗濯機、掃除機、ガスコンロに電子レンジ、上下水道に給湯器、エアコン、自動車、携帯電話。

なくして分かる有り難味。千鶴先生の根気強い指導の下、心から文明の利器を渇望しています。

廊下に始まり庭掃除、洗濯に食器洗いもどうにかこうにかマスターし、向かうは最大の難関、調理です!



「さすが、子供の頃からやりつけてるだけあって、包丁の扱いは上手ですね〜」

「うん、一人暮らしが長いと外食が増える人も多いみたいだけどね、私は駄目。

 おなか一杯になると動くのが億劫になるから、アハハ。たまにおかずを買うことはあったけどね」

そう、ずっとやってきたし料理は好きなので、下ごしらえは問題ないんだけど……。

問題は、竈。火が熾せない。でもって火加減も調節できない。ガスレンジ出てこぉ〜い!


「貸して、昼餉が遅れるから今日は手伝ってあげる」

うわ、びっくりした! いつの間にか総司が後ろに立っていて、

もたもたしている私を見かねたのか、手を貸してくれる。おお、素早い! 上手い!

「当番制でやってるだけあって、上手だね」

「うん、それもあるけど、近藤さんに預けられた時は下働きしてたから。

竈や風呂の火炊き番と掃除が仕事だったんだ。ほら、汁物仕上げちゃってよ」

たしかに、いくら練習だからといってもたもたしていられない。

配膳は千鶴ちゃんに任せ、おつゆを仕上げる。……こんなもんかな?

小皿に掬い、自分で一口確かめた後、千鶴ちゃんに味見してもらおうと振り返ると、

総司が私の手首を掴み、そのまま小皿に口をつけた。

「あっ、総司、そこ私が口……つけた」

「うん、美味しい。いいんじゃない?」

ああ、目がいたずらっ子みたいになってる。わざとだ、わざと。

ここで恥ずかしがったら思う壺。なんでもない風を装って、お碗におつゆをよそう。



そんな千穂ちゃんの肩越しに耳を近づけ、

「耳、赤いよ?」

と囁けば、上目遣いに睨んで頬まで赤くする。姉御肌でかわし上手な癖に、変なところで初々しい。

僕より幼い顔立ちに、似合わぬ大人びた表情と態度。キツイ言葉もなんなく受け止め、サラッとかわす。

全ての物と人と離れてここに来たはずなのに、僕はまだ一度も彼女の涙を見た事がない。

邪魔になったら殺せばいい。それは最初と変わらないけど。

ちっとも弱音を吐かない千穂ちゃんに、泣いてもいいよって言ったら、どんな顔をするのかな。

気になるんだ。





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