18 腕前

「千穂さんってさ、刀触ったことあんの?」

平助が聞いてきた。

「ううん、ない。本物を見たのもこっちに来た日が初めてかな〜。複製品なら見たけど」

「へぇ〜、俺なんか刀差してないと落ち着かないけど。頼りないっつーかさ。

 でもまあ元々女が持つもんでもないしな。小太刀持ってる千鶴の方が珍しいし。

 え? てかはじめ君! 千鶴と手合わせすんのかよ? 危ねぇって!!」

平助が仰天して止めようとしたが、それを総司が留めた。

「腕前を見るだけだよ。あの子、はじめ君に怪我させちゃうかもって心配するもんだから笑っちゃった。

 巡察に付いて来たいって言うからさ、どんなものか一応試さないと。心配は分かるけど、ね?」


千鶴ちゃんが小太刀を抜く。刀……か。あっちなら、持ち歩くのも禁じられている刃物。

それを当たり前のように身に帯びている。

と言っても、実際の切った切られたは場所や人を限定するのかもしれないけれど。彼らは新選組。

この時代に、一番刀が身近な人達。そんな彼らの側にいる、私。


思い耽っている私の側に、総司が来た。

「座りなよ。……帰る方法、まだ見付からないね。もし戻れなかったらどうする?

 君は僕たちとは、離れた方がいい。言わなくてもきっと、辛くなって離れると思うけどね」

「辛くなる?」

「うん、きっと。新選組と町を歩こうとするなんてさ、千鶴ちゃんも変わってるよね。

 父親探しの為だから、背に腹は変えられないんだろうけど。

 千穂ちゃんもさ、町に出たら分かるよ、僕の言ってる意味。

 それに君は……知ってるんでしょ? これからどうなるか。

 それってさ、話して辛いこともあるし、話せなくて辛いこともあると思うんだ。

 ……だから君は帰れるならさっさと帰った方がいい。

 帰れなくても……ここからは離れるべきなんじゃない? 行くあてがないのは分かるけど」

「そう、だね。……ハァ〜、行くあてがないの知っててよく言えるわ、まったく。でも、ありがと」


言葉は突き放しているけど、内容は真実だった。総司は自分達の立場も私の立場も、

よく見ていてよく理解している。頭いいんだね。それに優しいし、常識的だ。

普通に考えたらそれが一番だ。歴史を知っていて、女で、剣も握れない私が新選組と一緒にいるのは、

私にとっても彼らにとっても良いことではない。むしろ互いに危険が増す。


千鶴ちゃんの小太刀が弾かれて、こちらに飛んできた。あっ、危ないっ!

と思った時には、総司に抱えられていた。え? いつの間に!?私の居た所には飛んできた小太刀。

……もしかして今、限りなくトンでもなく危なかったのでは? 足ザックリいくとこだったじゃない!!


「あ、ありがとう、総司。よくとっさに動けたね。私、動けなかったよ」

「そう。分かってても動けないお馬鹿さんが君。動けるのが僕ら、だから新選組なんだ。

 これが君と僕らの違い。分かったら部屋で大人しくしてなよ、ね?」

言葉と裏腹に、総司はさらにギュッと強く私を抱え込む。


「いや、部屋に戻るなら離してもらわないと! 皆見てるよ? 何してんの!?」

「ん〜だって柔らかいし? いい匂いだし? 助けたんだからちょっとぐらい、いいじゃない」

「…………ご褒美にしちゃ長くない?」


「なにやってんだよ総司!」

「いい加減にしろ。雪村も都築も困っている」


いや、私はさほど困ってないけどね? オロオロする千鶴ちゃんを見て、ようやく開放してくれた。

千鶴ちゃんは斎藤君から腕前のお墨付きをもらい、土方さんが戻ったら、

巡察に付いて行けるかもしれない! と嬉しそうだった。


「よかったな、千鶴! 俺らからも土方さんに頼んどくからさ、待っててくれな!」

「いずれにせよ、副長の許可が要る。それまではすまないが待機しててくれ」


「ありがとうございました! よろしくお願いします!」

元気良く挨拶した千鶴ちゃんと共に、自室へ戻った。






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