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慌ただしく朝食の片付けをした志保が玄関へ急ぐと、総司が他の荷物を手にしていた。

「ごめんね、待たせちゃって。大貴と優貴は?」

「もう乗ってるよ。ねぇ志保、ちょっと目をつぶって」

「え? ……んっ」

総司は靴を履こうと屈みかけた志保の肩を軽く掴み、上体を伸ばしてキスをした。

玄関のドアは開きっぱなし。外には上司、車の中には子供達。

志保は顔を真っ赤にして彼の胸を押し留めようとしたが、スッポリとその腕の中に捕まってしまった。

ギュッと抱きしめられ、一瞬だけ二人の世界に入る。

「家と君と子供達……全部僕の物だ。志保、本当にありがとう。幸せだ」

そう言った彼を見上げれば。あんまりその瞳が優しいから、キュッと胸が詰まった。


「……子供が連れ子でも?」

「うん」

「私がバツイチでも?」

「もちろん」

「35年ローンだよ?」

「クスクス、頑張って稼がなきゃね」


「……愛してる」

抱き寄せられ耳に流れ込む言葉が、甘く優しく体に染み込んでゆく。

この人に出会えてよかった。もう一度勇気を出して、本当に良かった。

「私も……私も愛してる」

どこかでクラクションの音がする。出発を急かすその音も、今の二人には聞こえないようだ。



日曜の朝。玄関でキスを繰り返すママ達を、僕はやれやれと思いながら見ていた。

こういうのには慣れっこだ。だって二人はしょっちゅう僕たちの前でもチューしてる。

最初はママを取られたみたいで悔しくて怒ったりしたけど、総司はいい奴だからすぐ仲良くなった。


総司はパパじゃない。

でも、僕たちは家族なんだ。

僕たちは家族なんだ。





fin.


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