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五月晴れで軽く汗の滲む昼日中。

梗耶がカラコロと高下駄を響かせながら島原の大門まで来ると、門番の男はだるそうに伸びをしながら近づいてきた。

「梗耶姐さん、今日は御贔屓さんとお出掛けでっか? えらいめかし込まはって」

「さぁ、どうどすやろ。ほな出ますさかい旦さんもお気張りやす」

詮索するような物言いをやんわりといなしながら通行の札を見せると、懐へさっさと仕舞い込む。

柔らかく笑んだ妖艶さに男がホウッとなっているその横をいそいそと通り過ぎた。

もう彼は座敷に着いている頃だろうか、そう思うと少し裾が乱れても急ぎたくなる。

梗耶は軽く着物を摘み、はしたなくない程度に歩幅を広げ大通りから一つ裏の小路へと入っていった。

待ち合わせの場所に着くと暖簾を潜り、玄関では案内の者に声を落として用向きを伝えた。

「沖田様のお部屋へ」

「へぇ、もう着いておいでですよって奥へどうぞ」

芸妓が非番に贔屓と逢う――となれば大抵は芝居を観るか、川床で美味しい物でも食べるか。あるいは――

人目を忍びこうして盆屋に来るか、だ。

案内の者が下がり襖に手をかけた時、我ながら月並みな事をするようになったなぁ、と内心おかしくなった。



「沖田様、梗耶です」

ひんやりと涼しい廊下の床に膝を付きつつ中に声を掛けてみたが、一向に返事が無い。

ムッとしながら知らん振りを決め込んでる拗ねた顔が浮かび、思わずクスリと笑いが漏れた。

「……総司さん、梗耶です」

「どうぞ、入って」

言い直した梗耶が返事に応えて襖を開ければ、分かりやすく機嫌の良くなった顔が出迎えてくれる。

胡坐をかいたまま両手を広げているその胸元に腰を屈めて身を寄せると、案の定ギュッと懐に抱え込まれた。

広く開いた胸から立ち昇る汗混じりの男らしい香りに、一気にのぼせそうになる。

硬く引き締まった胸板に手の平を当てると、汗でやや冷えた肌から彼の急く心音が伝わってきた。

総司さんも同じだね。

鼓動と体温を確かめると、逢いたくて焦っていた気持ちが会えて嬉しい今へとゆっくり切り替わっていく。

額に押し当てられてた彼の頬が僅かに動き、唇の柔らかさに変わるのを感じた。

「梗耶さん、ちゃんと顔を見せて……会いたかった」

「私も。んっ……総司さんったら、むんっ……は……顔が見れないじゃない、もう」

顔が見たいと言うのに何度も唇を啄ばんでくるもんだから、鼻先を合わせながら軽くいさめてみる。

でも嬉しさが弾けたのはお互い様で、クスクス笑うその息をかけあいながら繰り返し口付けを交わした。

彼の前では白粉も廓言葉も要らない。扇子も重い着物も島原の中だけ。

非番の梗耶は沖田の物で、彼の前では芸妓でなく――――幸せいっぱいの恋する女性だった。




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