『Happy birthday、Merry』

久しぶりに聞いたお母さんの声は、以前よりもずっと元気そうだった。
お父さんと二人でささやかな私の誕生日会を済ませた後、遠い異国からの電話を受けたのは、夜の9時を少し回った所だった。時差は大体8時間。だから向こうはランチを過ぎた頃かな、と想像しながら受話器を握る。
「うん……うん、元気だよ。お父さんも私も」
そうやって頷く度に、視界の端で金の髪が揺れた。この国ではあまり見かけないわたしの髪色、お母さんと同じ色。だけど、お父さんとは違う。目の色も。話しながら電話線を弄る指の、肌の色も他の人に比べるとずっと白かった。
私、日月メリーはハーフだ。
なんでも昔、この国に留学に来たお母さんが、大学でお父さんと出会って結婚して、私を産んだらしい。けれどお母さんにはこの国の『水』が合わなくて、結局はお祖母ちゃんの所に帰る事になってしまった。お母さんは、水に関わる妖精の家系だったから。
それ以来、私はお父さんと二人暮らしをしている。
「カードとプレゼントありがとう。ちゃんと届いているよ」
寂しくないと言えば嘘だ。でも、こうしてお母さんは電話をくれる。夏休みや冬休みには会いに行ったりもする。だからこれで、良いんだと思う。
「お父さんに代わるね」
そう考えながら、私は言った。先程から全然テレビに集中できていない、お父さんを見て少し笑った私の雰囲気から感じたようで、お母さんも笑いながら返事をした。

廊下を反響する話声を聞きながら、私は自室のドアを閉めた。途端に静かな空気が押し寄せてきて、自然と息が零れる。
網戸にした窓からは、どこかの茂みで鳴く蛙の声が染み入っていた。
そこに時折混じる、ガサガサとした笹の音。
充電器につないでいた懐中電話を回収して、窓辺へ歩み寄りながら私は指が覚えたダイヤルを回した。呼び出し音の鳴るそれをそっと耳に当てる。
窓を開けると、雲の隙間から星々が輝いていた。
わあ、と小さく零してしまった声は幸か不幸か誰にも聞かれる事は無かった。
鳴り続ける呼び出し音。
本日何十回目の通信も、繋がらないまま終わってしまいそうだ。
仕方なく諦めて切った、懐中電話を胸に抱いて目を閉じると、瞼の裏に金の光がちらついた。
それは笹に結んだ、願い事。
折角の誕生日なのだから、少しは良い事が合ってもよさそうなのに。少しだけ恨めしく、多分まだ電話しているだろう両親を想って溜め息を吐く。
年に一度だけ会える恋人たちだって、想いは年中通じあっているのだから。
だから、いつか私も。

瞼を上げれば、星が静かに煌めいていた。


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