僕は知っている。
あの人はいつだってタイガーさんしか、みていない。

「なあおいアントン今夜暇か」
「……八時な」
「おう!」

そんな簡単なやり取りで、連れだって行ける関係がうらやましくて少しへこむ。
だって自分はただの仕事仲間でしかなくて、それでも彼を見ていられる。
例え彼が自分以外の人を大切に思っていたって、僕はヒーローの中でも三番目に年若いのだからいつでも彼に甘えられるし、出動したってお互いトップランカーからは程遠い気安さで助け合えるし時にはかばってだってもらえる。
それだけで十分幸せじゃないか。
ファイヤーエンブレムさんにお尻を触られてもどこかあきらめたように喚き散らす姿とか、ふにゃっと笑いながら僕とキッドを構ってくれる優しさだとかに触れられるんだからいいじゃないか。
僕は自分に、そう言い聞かせていた。

そんなある日に、突然現れた、「後輩」。
僕なんかよりずっとずっと優秀で、TV映えする能力に甘いマスク、それに努力家。アカデミーでももてはやされ、同じ指定ジャージ姿でも光るような見栄えの彼は、あろうことかタイガーさんのバディになった。
あれよあれよとポイントを挙げて人気者になった彼は、ついでに「彼」からタイガーさんまでかっさらっていってしまった。

「なあ虎徹、今夜」「うおおごめんアントン!今日俺無理だわ!」
「バーナビーか」
「うんごめん……あいつとセットで取材……おじさんもうヤダおうち帰りたい……」
最近二人は夜遊びをめっきりしていない。けれど僕はそれを僥倖だとは思えなかった。
アントニオさんがタイガーさんを誘って断られるたびに、絶対にタイガーさんからは見えない角度で悲しそうに眉を寄せるのを見てしまっていたから。
僕は、何も知らないふりをして彼に不器用に甘えかかるしか、出来なかった。


「あんた達!ジェイク事件解決祝賀会兼全員退院おめでとう会兼ハンサムお疲れ様会するから今夜ここいらっしゃい」
トレーニングルームに全員の顔がそろって三日目。ぽいぽいぽいと居並ぶヒーローたちにファイヤーエンブレムさんが名刺をばらまいて笑った。

キッドとローズはあたしが親御さんに電話したげるからほら電話かけて貸しなさい。
はいどうも。お世話になってます。ええ。若い子たちにはお酒もたばこも。はたいてでもさせません、ええもちろん。
女の子ですから夜9時にはお帰しします。うちのに送らせますからお嬢さんをお借りしても?ありがとうございますではまた。ええごきげんよう。

そうしてヒーロー全員で食事に言った先はやはりというかクロノスフーズ一押しの焼肉チェーンだった。

ここは半分個室のような作りだしみんな肉のやけ具合にしか興味がないからバーナビーさんがいても注目を浴びづらい。

店員さんたちもアルバイトの学生ですらめまぐるしく立ち働いているもんだから客になんか目もくれない。

そんな中で散々きもちよく飲んで食べて、スカイハイさんが夜のパトロールだからと真っ赤になった首筋のまま華麗に席を立ち、キッドさんとブルーローズさんをファイヤーさんが呼んだ車に押し込んで戻ってきてからのことは、思い出したくない。
猥談の類があまり得意でない僕にタイガーさんとファイヤーさんから集中砲火を浴びせられたのだ!
それから逃れようと呷ったサケが、気持ちよく酔いの回っていた体には覿面に効いた。

「おい折紙」

ゆらゆら揺すられる。うえきもちわる。
やっとやっとで目を開けると、厳つい顔が見つめていて嬉しくなった。

「あーばいそんさんらー」
「家着いたぞ。部屋どこだはやく開けろ、で帰らせろ」

三階です、と返しながら階段を上がる。自然に少し下に陣取って落ちないように支えてくれる手が優しい。嬉しい。

「たいがーさんはいいんれすか」
「バーナビーが背負ってったから大丈夫だ、ってお前まだ相当酔ってんな」
「そんらことないれすよ」
「呂律回ってねぇぞ」

そんなの口だけですよ。
あなたが僕に着いてきてくれるなんて嬉しくて酔いもさめます。

「ねえばいそんさん」
「あ?」
「すきです」

するんと口からこぼれ出た。あっまだやっぱり酔ってます。そう、酔ってます、だからもっと言おう。

「だーいすき、ですかっこいいし。でっかくてつよくておとこらしくてどじでかわいいのとかほんともえです。ぎゃっぷもえです」

階段で上下なのをいいことに身長を気にせずだきつける。ハラショー僕。よくエレベーターなしのアパートの三階に住んでた。決め手は家賃の安さだけだったんだけど。

「はいはいどうも。萌えってなんだ萌えって。はやく帰れそんで寝ろ」

とんとんと背をあやしてくる。わあ近い。女の子の甘い匂いとかタイガーさんのコロンみたいなすっとする匂いとかとは違う、彼のにおいが鼻をくすぐる。いいにおいだ。あっ勃ちそう。

「本気ですようぼくバイソンさんなら抱ける」
「おーおーわかったわかったありがとな、おれもだよ」
「ほんとですか」

絶対適当に言った。でもそう言った。自分で認めた。あーうんうんよしよしめんどくせーとか呟いてるのは聞かなかったことにする。

「じゃあ僕のものになって下さいね」
「は」

もういいかな。
実はもう酔ってません、すみません。
すきな人と二人っきりでスキンシップありありで喋ってたら、べろべろに酔ってたってあっという間に覚めますって。

「今良いって言いましたよね」

好きです、そう目をみて言う。

褐色の肌ごしでもわかるくらい赤くなったバイソンさんを捕まえて、見下ろすまんまでキスをした。

「ねえ、良いって言いましたよね?」




しのばない





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -