金髪を指に巻きつける。
ほどく。
くるんときつく巻いたそれを指でつつく。
そうするうちに巻きが緩んでいつも通りの緩く跳ねる髪に戻るのをまた指で巻いて。

「なにしてんですかおじさん」

不機嫌な声が降ってきて虎徹は笑う。そんなとろけた顔で言ったって怖くないぜ。バニー。かわいいハニー?

「バニーを弄んでるとこ」

ふふふと笑いながら言ってやると、仕返しとでも言わんばかりに手が伸びてきた。
それをよけるでもなく擦り寄ると、長い指が頭皮を押し上げる様にして力をいれて撫でられる。
虎徹は自分が猫だったら喉がごろごろ言いそうなほどにそうされるのが気に入っている。
気持ち良いことは好きで、そうしてくれるこの青年が好きで、心預けた人に良いように触られることが好きで。

「あー……バニちゃんおじさんちょうしあわせ……」

とろけるような声でため息を吐いた。

身体をベッドに長々とのばして、動物のようにくつろぐ彼に、青年も身体がほどけるような気がしてゆったりとした掌の行き来をやめない。

ぺったりと身体を合わせたまま、欲をぶつけあうでもなくゆるゆると頭を撫で合うだけ。
ふつふつ沸くのは熱よりももっと穏やかなぬくみばかりで、髪をかきあげていた指をそのまま首筋まで通してこりこりとツボを押してやると、ふわあとやわらかな息が漏れてバーナビーの鎖骨を温めた。

「なあバニー」
「はい」
「ごめんな」
「……はい?」

白皙に寄るシワさえ美しいのに見とれながら虎徹はおもう。
ああなんて綺麗で綺麗で綺麗ないきもの。

気が遠くなるようなきつい思いをして、戦って戦って戦って、ぼろぼろになってもまだ立って。
そうしてようやく息を着くことを自分に赦せるようになった不器用で怖がりで、真面目で素直なこども。

これからようよう四つの頃から閉じていた目を開いて縮めていた手足を伸ばして、すくすくと日を浴びるはずのわかい心は、一番近い体温を恋しがっているだけだ、知っている。
図体ばかり大人になって、欲と恋慕と愛情と友情と思慕と寂しさをごっちゃにして、こんがらがった頭のままの彼を諌めず抱いたのは虎徹の我儘だ。

気持ち良いことが好きだ。
そうして慣れた身体で不慣れな生意気なのをずるずるに溶かしてかわいがって甘やかして堕として。

本当ならこんな、好き放題に汚した身体で触れてはいけないほどの男を、そうして絡め取って幸せだと思う自分を時折心底おそろしくおもう。
まるで自分を抱いて感覚と感情を作り変えたあの、男たちのように。

不意に思い至ってぞくりと背が冷えた。

「なんですかまたグラス割りでもしたんですか。それかリモコンふんづけたとか」
「バニー、」
「別にいいですよ怪我しませんでしたか」
「違う」
「ああならカーペットにまた酒こぼしでもしたんでしょう」
「バーナビー、」
「いいですよハウスクリーニングいれたらわかんない位にはなりますし」
「バーナビー・ブルックスjr.!」

聞きたくないと。

耳を塞ぐ変わりにとうとうと話すのを強い口調で諌めるととっくにゆがんでいた顔がくしゃりと崩れて雫が落ちた。

目に眩しくない白のさらさらしたシーツにほろほろ落ちるそれはどうしてみどりじゃないのか、詮無いことを思いながら虎徹はバーナビーの腹に跨って顔を隠す両腕を捕まえて縫い止める。

涙まみれの顔をふさがった指先のかわりに塩めいた目尻をぺろりと舐めると、すんとなった鼻先がわずかに持ち上げられて顎の先についばむようなキスがふたつ。

「こてつさん」

ちゅ、と甘えた音が近づくのにおとなしくしていると、唇を触れさせたままで話出す。
近すぎて焦点がぼける。映る瞳の緑とアンバーが溶けてまざって底の知れない沼や森みたいな色だなあと思う。

「怖がらないで」

撥音がまざるたびにくちびるが触れ合う。柔らかい感触に目を細める。

「僕だってもう、大人ですよ」

ぱしんと音がしそうに長いまつ毛がしばたいてまた一粒ぽろんと涙が落ちた。
もったいなくて唇をずらして吸い取る。しょっぱい。ぬるい。けれどあまい。

それを追うように首をふるバーナビーがもう一度虎徹の唇を捕まえて、何時の間にかゆるんでいた腕から腕を逃がしてしなやかな黒髪をかきあげて引き寄せる。
くるんと上下を入れ替えて涙のせいだけでなくきらきらした眼がはっしとまっすぐ自分をみるのに、柄にもなく虎徹はきゅんとした。

「あんたが今までどんだけ爛れてたって、そりゃ悔しいし腹立つけどでも、いいんです」

ふっと力が抜けたバーナビーを受け止めてやる。
抱きしめて背をあやして、のしかかる重さを気持ちよく受け止めると首筋に吸い付いたままくぐもった声が囁いた。

「僕が選んだんですから、あんたが嫌がったってびびったって知ったこっちゃないですよ」

ねえ僕の、俺だけのになって下さいよ。

甘え切って低い声が腰に甘く響くのに、そわそわと鳥肌をたてながら虎徹はそっと囁いた。

「楓が嫁に行くまではお前なんか二号さんだよ、小坊主め!」







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