こどもが、泣いている。
たったひとりで声を張り上げるでもなく、俯いて目からぽろぽろ涙をこぼすそれはひどく痛々しくて切ない。泣き喚いてだだをこねて、引っくり返って怒っている方がずっといいと、そう思う。
しゃくりあげる息が苦しげで、みていられなくなって近づく。わざと足音を立てて存在を知らせて、そっとかがんで声をかける。

どうしたの。どこかいたいの。

小さく首を振って、なんでもないと嘯くのに小さく笑う。

なんでもなくないでしょう。そんなに泣いて。

言うと、肩が震えてそれから小さな掌がごしごし目元を拭う。ああ目が腫れてしまうとおもって伸びた手が腕にふれる。あんまり細くて柔らかいのに壊してしまいそうだと思いながら、そっと止める。
ごめんなさい、と囁くのが痛い。違う、君をしかっているんじゃないんだ。そっと抱き寄せて、ちいさい体を包み込む。

泣いていいんだよ。でも、一人で泣かないで欲しい。

言うと、腕の中の体がひくりと跳ねて、それからおそるおそる、腕が首にまわってしがみつく。ぽんぽんと背をあやしてみると、ぎゅっと抱きついてきてようやく小さな泣き声がもれた。

いいこだね。たくさん泣きな。

まるであの人のような言い草だと、思いながら囁く。柔らかい髪を撫でて汗で張り付いた前髪をはらって、まるい頬に頬をくっつけてから白い額にキスをする。それからもう一度泣き過ぎて熱くなった小さい体を抱き締めた。

これから少しばかりきつい思いをするけれど、きみは、僕は大丈夫だから。
だからどうか、あまりたくさん悲しまないで。

ひとりで泣かなくていいんだと、はやく気付いて思い切り泣けばいいと、どうしたらこの子に伝えられるだろう。



目が覚める。
となりで眠るひとの気配と体温を感じる。心臓がちぎれそうに痛くて、暖かい。
いつも通りの夜に、安心感にぼうっとのぼせたようになって、顔が濡れていたのに気づいた。頬をつたっておちる水滴を腕で拭う。
時計を見るまでもなく夜の濃い闇の中で、深く息をひとつつく。
かわいてあたたかな掌を無断でかりてにぎりしめる。両手で祈るようにつつんで目を閉じる。

ほらごらんよちいさい僕。
いまはこんなにもしあわせだよ。




Donotcry





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