「かえでーええええおりゃあ」
だばん、と盛大な水しぶきが立って、赤い浮き輪がひっくり返る。
たっぷり三拍遅れて顔をだしたずぶ濡れの楓は、したり顔で笑う虎徹の首にひっついて笑いながら叫んだ。
「んもーおとーさんのばかあああ!」
言って、つかまえた肩に飛びつくようにして水に沈める。もう二人ともずぶ濡れもいいところで、きゃーきゃー言いながら如何に不意をついてお互いを沈めるかを競う。夏の日差しがプールの水をきらめかせてまぶしい。
バーナビーはプールサイドでファンに囲まれながらそれをみていた。
「バーナビーさんもプール来られるんですね!」「デート、ですかあっ」「やだーショックー!」
きゃあきゃあきゃあ、黄色い声に覆われてバーナビーは心の中で泣きそうになる。あつい。目の前にプールがあって、連れがものすごく盛り上がっているのに、自分はまだパーカーも脱げていない。
ああプール。水しぶき。ひかりを弾いて綺麗だ。たぷたぷゆれる水が恋しい。
けれど今自分があの二人にまざったら絶対に囲まれてタレこまれて終わりだ。バディで子育て愛の巣報道もされかねない。なにせ公共電波で二度もお姫様抱っこをしてしまった。
しかも未だに虎徹は楓にヒーローしていることをばらしてはない。楓に父親がヒーローであることとホモ疑惑をかけられていることを同時に知らしめるのを避けるためなら、灼熱のプールサイドでファンに囲まれる位耐えてみせよう。
健気に思ったバーナビーだったが、ピリリと笛がなってプールサイドからわらわらと人が上がってくるのに気付いて逃げた。休憩時間でごった返すプールサイドでファンにつかまりでもしたら終わりだ。さっきみたいに濡れた海パンにサインはしたくない。
「バニーちゃん?」
ぴたぴたぴた、ぬれた足音が探すのに、とりあえずゴムで髪をくくって眼鏡を外してから手を振ってみる。
「わ、変身バージョンだ」
言いながら楓は近づく。ポニーテールから水をしたたらせて笑うのが夏の子どもの見本のようで、バーナビーは額に一筋張り付いた前髪を払いながら誘った。
「楓ちゃん、お腹すいてない?」


「なんでプールでラーメン食べるのってこんなにおいしんだろー」
「体が冷えてるし、動くとお腹が減るしね。楓ちゃん、楽しい?」
「うん!きもちいいよーバニーちゃんも遊ぼうよー」
満面の笑みでいうのに、うんともいいやとも言えずにバーナビーは曖昧に笑った。
ちくしょうヒーローってばらしとけよおじさんのばか。
暑さに思考が暴力的になりながらも、ファンの人につかまっちゃってね、と呟くと楓が不思議そうに首をかしいだ。
「そう?今のバニーちゃんならわかんないよ、ヒーローのバーナビーにはみえないとおもうけど」
「ほんとに?」
「うん。メガネなくて髪の毛くるくるじゃなきゃ普通のお兄さんだよ」
「そう、かな」
バーナビーは、うまいことごまかせたのが嬉しいはずなのになんだか微妙な気持ちになった。
そんなことをつゆともきにせず、楓はとっくに休憩の終わったプールに青年を誘う。
「ねーバニーちゃん、プールいこ?」
伸ばされた手に嬉しくなる。

「おーかえり楓。と、バニーぶはははは」
ちょっとメタボってるから泳いでくる、と二人をおいて競泳用レーンに行っていた虎徹は戻ってくるなり指をさして笑う。憮然として、バーナビーの声は低くなった。
「なんですか失礼な」
「よーやくプールでメガネ外したのな!お前どんだけあのメガネ好きなんだよ」
「見えないと不安なんですよ」
「そんなに目ェ悪くねえだろ」
ぎゃいぎゃい言い合う大人の男二人は目立つけれども、誰にもバーナビーだと気付かれない。声をかけられもしない。今日はただのプールで遊ぶ一般客だとおもってバーナビーはどこかで吹っ切れた自分を感じた。
「いい加減僕も泳ぎたいんですけど」
「よし楓バニーまぜてやろ。なにする」
「ウォータースライダー行きたい!」
「よしきたちびんなよバニー」
「おじさんこそ泡吹かないでくださいよ」
言いながらプールサイドをあるく。
真ん中にはさんで言い合うのをけらけら笑いながらみていた楓の目がきらりとひかって指差した。
「あれのろー!」
「え」「うおお」
楓が指差したのは最後に結構な高さから放り出されるタイプのスライダーで、大人二人はつい、声が漏れたががんばってのった。
楓はけらけら笑いながら何度も挑戦した。
二回目からは、二人は下で出迎えることに専念した。




プール





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