※虎嫁ねつ造甚だしい
※バニーなんかそえもの
※公式の鏑木家が一刻もはやくみたい




「こーてーつくん」
「なにーともえちゃん」
「来たよ」
「う」
「はい」
差し出したのは企業名が黒々と入った封筒。にっこりわらって小首を傾げるのに、ひきつった笑いで受け取った。
「そそそそういえば風邪ひいたって言ってたけどちゃんと病院行った?熱でてたよな」
「はい、話をごまかさない。それ、結果の通知でしょう?」
「いやだあああみたくないいいい」
「んもうまたそんなこといって。弱虫。弱虫ヒーロー!」
「だってもうここ落ちたらさ……」
今年もヒーロー採用全バツじゃんよう。
「大丈夫よ、わたしが養ってあげるから」
「ともえちゃんそれ冗談じゃないよねえ」
「うん」
だって私頭良いしー。手に職正社員最強よ?
そう言って笑う。

あなたの目指すことをしてね、と笑ったこの美しい人の薬指に指輪をはめさせてもらった時には柄にもなく後悔した。彼女を俺なんかがもらってしまっていいんだろうか。俺だけ幸せで彼女の幸せにはならないんじゃないか。
そうしてしょんぼりしていたら思いっきり背中をはたかれたあと泣かれた。

どうしてそんな事いうの。
私だって虎徹くんのことばかみたいに好きだよ。
苦労するのなんかわかってるけどでも、私が虎徹くんじゃなきゃ、やなの。

それからふたりで子供みたいにわんわん泣いて、赤い目のままキスをした。

「……あけます」
「はいどうぞ」
「なんか軽い!」
「だってもうドキドキするの今年で5年目よ?虎徹くん去年までもいくつも受けたじゃない」
「でもー」
「もう慣れちゃった!ほらもうはやくあけてよう」
慣れちゃったって。落っこちるのに?
虎徹は肩を落としながらびりびりと封を破いた。
しゃりっ、と白い紙を引き抜く。三つ折りになった、二重にしてあっても少しだけ裏が透けて何かかいてあることはわかる、白い紙。
ひらいた虎徹の肩がひくんと上がって下がって、長い長い息が漏れた。

白い手がのびて、艶のある髪を撫でる。
「お疲れ様。」
がんばったんだから、いいじゃない。
今日は好きなもの作ってあげる、何食べたい?とにっこりわらった顔は、いたわる優しさで、けれど落ちた顔はまだ戻らない。
「きゃっ」
わし、と抱き寄せられて肩に顔が埋まる。震える息に小さく息をついて、笑う。
残念だったね、虎徹くん。またがんばればいいじゃない。
言うと、いやいやをするのに笑う。
「もういやになっちゃった?」
それでもいいよ、続けようとした目の前にがばりと顔があがる。真っ赤だ。
「違う!」
差し出された紙を受けとる。
開く。
黒い目がゆっくり文面をおって、え、と細い声がもれる。
「……うそ」
「じゃない、と、おもう」
「どこ」
「トップマグ」
「部署は」
「事業部、の、」
間。
息の音だけ落ちて静かなリビングに、どちらともなく囁きが落ちた。
「ヒーロー課…………」
もう一度、間。そして。
「ヒーロー課ァァァ!やったあああああぐえ」
叫ぶ虎徹の首にぎゅうと白い腕が巻きつく。すごい力でしがみつくのに、虎徹はくしゃくしゃに笑って抱き返した。
「………かった」
「うん」
「よかったねえこてつくん……!」
「うん」
「おめでと、ほんとに、ほんっとに」
「……ありがとなぁ」
潤んだ目がわらうのに、すんとはなをならして虎徹も笑う。
長い黒髪に頬を寄せる。ひやりとつめたくすべらかでいい匂いがする。
二人でぴったりくっついて動悸をしずめていると、不意に腕の中の身体が逃げたのに、首を傾げつつも離す。
優しくて強い、一番の味方。
「あのさ、ヒーローネーム、どうするの」
「え、」
もちろん彼女と最初に決めたのにするつもりでいた虎徹は豆鉄砲をくらった鳩みたいに目を丸くした。
「わ、ワイルドタイガー、じゃ、ダメかな……」
「それ私が考えてあげたじゃない?」「うん」
昔のノートが出て来て思った。
止めてくれてありがとうございました。まじで。やっぱり女の子にこういうのは頼むに限るなあとしみじみ感じた。
ところでずっとそうするつもりだと、いい続けてきたのに今更なんだろう。
「ワイルドタイガーは使わせてあげる。だからね、今度は虎徹くんの番だよ」
「へ?」
めずらしく彼女の話がよくわからない。いつも論理的ではっきりと話すのに、なにかをぼかして笑う、顔。
「あのねえ」
つ、と白い手が手招くのにおとなしく従う。耳を少し下にある顔によせて、右手を彼女の左手にあずけて、余った左手で体重をささえておおいかぶさるようになる。
ふふふと笑いながら耳に右手が触れて、耳打ちされた。
男の子でも、女の子でも、変な名前はダメよ?
「おとーさん。」
目を合わせて言って、預けた手をぺたんこの腹に当てさせる。
ぼかんと目と口があいたままの虎徹にくすくすわらった。
それから蛇口をひねったみたいにぼろぼろ泣くのを笑って眺めて、あんまり止まらないのにひとつあたまを叩いて、立ち上がった。

「さ、今夜はお祝いがふたつだからご馳走も大変だね!手伝ってよね、虎徹くん?」

そう言ってさっさとキッチンに向かうのにがくがく頷いた後、あっやっぱダメ座っててえぇと、細い背中を追いかけた。



「うちの嫁さんまじいいだろー。バニーもはやく結婚しろ。で子供産んでもらえ。かわいいぞー」
「余計なお世話極まりないですね」
「ほらみろ写真。美人だろ。そしてみろこれみろほら」
「なんなんですか……っ!」
「いーだろー?仲良しだろー」
「いえ、バカップ……失礼、どうせあなたのむちゃぶりですよね」
「んーにゃ、これあいつのリクエスト」
「ええっ」
結婚式でもないのにキスシーンの写真を残すなんてとバーナビーは奥方に抱えていた清楚でひかえめ、という印象をかきかえなきゃなあと思って悲しくなった。




A little time ago





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