やわらかい風がカーテンを揺らしていた。差し込む日差しはクリームのようにやさしく、目になめらかで暖かいばかり。
しずかに流れる古い歌。まどろむふたりは一幅の絵のようにしっくりと馴染んでみえる。

リビングで楓が宿題を片付けたり本を眺めたりしている。その横で仕事の資料をまとめたりTVを見たり、そんなことをしている間にくわぁと大口を開けて欠伸をした虎徹は、休日仕様のシャツの襟元を開いて軽く伸びをした。
昼過ぎでたいして面白い番組もない。くるくるチャンネルをまわしてふと止める。古い映画のレトロな色使いの画面の中、けれどその美しさが欠けることなどない名女優がゆっくりとまばたきをして、ほほえんだ。
「おとうさん、この映画知ってる?」
とん、と隣に座る。さっきまでテーブルでもくもくと書いていた作文はおわったらしい。ソファの上で膝を抱えて、TVに目を吸いつけさせながら問う。
「この人すごいお金持ちになるんだっけ」
「あれ、楓これ観た事あるか?」
「んん、なんかそんな気がする、んだけど」
古いよねえ、と首を傾げた楓に、ばあちゃんが生まれる前の映画だからなあと教えてやって、それからなんとはなしに肩を並べて見入る。

ふんわりしたスカートと綺麗なスカーフを翻して走るのに、軽いクラクションが彼女を呼ぶ。にっこり笑って、上品な顔立ちからは想像もできない軽やかでおきゃんな動作でオープンカーにひらりと飛び乗った。
そのあと大写しになる笑い顔が、小さい頃の楓のあけっぴろげな笑顔のようで、嬉しくなってふと横をみる。
とろんとした目。まばたきをくりかえして、こちらを見上げる。
やっぱこれしってる、と丸い声で囁くのに、そうかと笑って髪を撫でると、いよいよ瞼が重くなる。

昼下がりの空気はほどよくぬるまってやわらかい。それでも薄手のTシャツにハーフパンツで眠っては風邪を引くだろう。ソファにたたんであるブランケットを引き寄せて肩をくるむと、めをつむったまま小さい手がぱたぱたとあたりを探る。
言葉にならない声があがって、なんだろうと差し出した左手があたたかな手につかまる。
ふふふと満足げに笑うのをそっと横たえて、頭を膝に載せてやる。
くるりと丸くなって満足気にふうと息を吐くのを見届けてからそっと手を延ばして傍らに投げていたリモコンをつかまえて、テレビの音量をしぼる。
自由な方の手で頭を撫でてやっていると、暖かくなった体と寝息がうっすらと眠気を運んでくるのに、まあいいかとおとなしく目を閉じた。

バーナビーがそうっとリビングを横切ろうとすると、男の膝の上でケットにくるまってまるまっていたこどもが目を開けて、低い声でおかえりを言った。
目を丸くしたバーナビーに、くすくすわらって言う。
つかまっちゃってるの。
右手が背に添えられていて、起きあがったら手は滑り落ちてきっと虎徹は目覚めてしまうのだろう。穏やかに閉じられた瞼とくちびるは優しい。そんな父親の寝顔を盗み見るのがあんまりたのしそうなので、そうっとソファに近寄って、ソファの下のラグにじかに腰を下ろして座面に寄りかかった。目を合わせて、くすくす笑い。

起きたらきっと、バニーちゃんいるからびっくりするねえ。
そうかもね。

二人でなんとなく楽しくなって、寝顔を眺める。
その様もまた、やわらかな日差しにくるまれて優しい絵のようだった。けれどそのことは、誰も知らない。




おひるね





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