※ぐだぐだオールキャラ





トレーニングルームがざわついているのに、カリーナは首を傾げた。
なにかしら。誰かが怪我したとかじゃなさそうだけど。
ぱしゅん、と軽い音でドアがあくのに小柄な身体が猫のようにすべりこむ。
「わ、ごめん、おはよう!」
「何かあったの?」
気安い問いに軽やかに返ってきたのは耳を疑う様な言葉だった。
「んー、おじさんが倒れた!」
目を見張って絶句したカリーナに、困った様に眉毛を下げて、パオリンがわらう。
「おなかすいたって」

ベンチを囲む様にして、ヒーロー達はわらわらと集まっていた。その中心には、背もたれによりかかって顔色の悪い虎徹が、ひらりとカリーナに手をふってみせた。
「おう」
その手が肩からぽふんと落ちる。
それをみたキースが大丈夫かいと膝を着く。虎徹の髭もただの無精が少し目立って侘しい。
「どうしたのよ」
「 賠償金出させすぎたからって給料カットされた……から金がねぇ」
あんまりにも彼らしい理由。それでも。
「じゃあなんでジムなんか」
「……身体動かしたら腹減ったのごまかせんじゃねえかと」
「バカね」
へにょんと落ちた眉が犬みたいで、あんまりいじめるのも可哀想に思えてくる。
「ねえ。おバカさんよねえ」
「熱血だな!」
「いやただのバカだろう」
容赦のない追い討ちが、虎徹を沈めた。

「お菓子しか持ってないんだけど……食べる?」
カバンを覗いて、少しのこったチョコレートのスナックを見つけて差し出す。と、口を開いて片目を開けて、促す虎徹にカリーナは戸惑う。
おずおずと開いた口にビスケットを放り込むと、咀嚼してまたあー、と口をあく。それにまた差し出すと、動物みたいによりついてぽりぽりと齧る。
「んもう」
ため息をついて餌やりに専念するが、そんなに量が入っていないのもあって、すぐになくなってしまう。もうおしまい、と袋を逆さにして見せるとうううと不満げにうなった。
「わあボクもやりたい!ちょっとまってて!」
「あ、じゃあ僕も……!」
それを見てパオリンとイワンが足音軽くかけ出る。アントニオがまぶしそうにわらって、つぶやく。
「餌やりとか好きなんだよな、こどもって」
帰ってきた二人がにこにこしながらそれぞれ手に握り締めた食べ物を口元に差し出すのに、ひとりずつになさいとたしなめてやっていたネイサンは、みつめる視線にふと振り返る。
「スカイハイ、あんたも?」
栄養補助食のクッキーを握り締めたキングオブヒーローが、片手を差し出しかけてさみしそうにこちらをみていた。
カリーナがどいてやって、そこにごく嬉しそうに笑っておさまる。
三人がきゃあきゃあ笑うのに、少し余裕が出てきたらしい虎徹が口の中がぱさぱさする、とつぶやいた。

「アラやだ、そんなの貰えるの?」
「一応スポンサーだからな。身内にって出してくれんだけど、親も年だしそこまでつかわねえよ」
アントニオがチェーンの焼肉店のサービスクーポン券を財布から取り出して虎徹のロッカーに放り込む。ついでにコーヒーやらジュースやらを適当に人数分ベンダーで見繕っていると、なにやら携帯端末を軽やかに操作していたネイサンが横から伸ばした手でミルクティのボタンを押してから唇をつりあげた。
「あの子にはみんな甘いわね」
まあな、とアントニオも笑う。
なんとなく面倒をみたくなってしまうような愛嬌がいくつになっても抜けない悪友は、それでも一児の父親なのだと思うとおかしくてつい喉が鳴った。

「なぜだ!そして不可解だ!」
「アタシが頼んだのよ。ほらアンタたちも食べなさい」
フロントから連絡があったとドアを出たキースが、両手にビニールをぶらさげて紙の箱を抱えて、危な気ないながらも確かに大荷物を持て余して帰ってきた。それにネイサンがひらひらと手を振るのに頷いて、近くにいたパオリンとカリーナが手を貸す。
すぐにリフレッシュスペースのテーブルいっぱいに広げた女子二人は、物珍しげにフタをあけては歓声をあげた。
「うわーすごーいデリバリーでピザ以外のもの食べるのはじめてー!サラダってこんなふうにくるんだー!」
「あっデザートも。そう言われてみればうちもピザ以外取らないかも」
きゃあきゃあいいながら嬉しそうに笑うのに、アントニオがパオリンの頭を捕まえてわしわし撫でる。
「いいうちで育ったなあお前ら」
ええ、なんで、と上がる声に、苦戦していたカリーナからナイフを受け取って、華麗な手さばきで料理をサーブしながらネイサンが笑う。
「んふん、さみしい一人身のオトコはね、なんでもかんでもお金で済ませちゃうのよ」
だからサラダでも作って出してやったらオチるわよう。
ぱちん、と飛んできたウインクに、少女はいつになく真剣な顔で頷いた。

「ありがとなーいただきまーすうめええええ」
「ほらあんたたちも食べなさい」
促されて、一風変わった食事会がはじまる。伸びる手が賑やかで、誰となく楽しい気持ちになる。
そうしてイワンがテリヤキチキン・ピザに海苔を掛けながらしみじみと日本食の素晴らしさを語っていたその時、楽しそうにけれど黙々と動いていた虎徹の手と口が止まる。
「う」
「どしたの?」
「大丈夫ですか?」
心配そうにこちらをみるのに、虎徹は切ない顔で眉を寄せた。
「パイナップル入ってた……あったかいパイナップル……ううう」
ネイサンが差し出したアイスティに礼を言って飲み下す。口の中が変なかんじだと虎徹が言うのに、各々が首を傾げたり頷いたり叱ったり。
「おいしいじゃん」
「贅沢いわないの」
「……わかる気がします」
「俺も無理」


「あれ、ところで今日バーナビーさんはこないんですか」
「んんーあいつな、なんか個人トレーナーとか取材とか忙しいからなー。今日もうこの時間だし来ねえだろ」
「ハンサムは大変ねぇ」
「かたや賠償金で干からびてるってのに」
「うるせー」
わいわいと好き勝手に言いながら盛り上がる。そのさまをみつめる影が、暗い廊下の隅にいた。
「僕んちにきたらご飯くらいたべさせてあげますよ……?パートナーのくせにみっともないとこ見せないでください、恥ずかしい……?いいワインをもらったんですけど…………?ダメだどう言ったらいいのか……!」
ウワアアアア!と頭を抱えていたら出るタイミングを失ったバーナビーは、デザートで盛り上がる様子に悲しくなって、そっと闇にまぎれて自分の部屋に帰ってピザを取って食べた。


「やべー生き返った!ごっそさんみんな、あと特にネイサン!今度おごるわ」
どことなくつやつやした虎徹が高らかに復活宣言をした。なんとなくパオリンが張った胸の下、胃のあたりを軽く叩くとうわあやめろおおおと情けない声があがる。
「安酒をな」
「アラやだいいオトコとならなんでも美味しいのよ」
茶化したアントニオにネイサンが指を振ると、虎徹がアントニオの首を掴んで差し出した。
「よし、アントニオもつける!」
「他に食べたいものある?」
にっこりわらって受け取るネイサンに、もう入らねえからまた今度助けてと虎徹が言うのに笑い声があがった。


「たーだいまー……っと。あれ」
帰り着いたすみかに、不在通知票を見つけて首を傾げた。差出人をみていよいよ傾いた首は、品名を見てぴんとまっすぐになった。
わあい、と小声で囁きながら電話機に手を伸ばす。早目に届けてもらうに越した事はない。
翌日、オフィスで何故かかなしそうな顔で胃もたれがとつぶやくバーナビーに虎徹は添え状を見せてやる。
そこには例のヒーロー事件を取り扱う裁判官の名前があって、バーナビーも首を傾げた。
「すげーよくわかんねえタイミングだけど、あいさつだって。ハムいっぱい送ってくれたんだけど。バニーちゃんもいる?」
「いいです」
「じゃー俺がたーべーる!」
ウフフ今夜はハムステーキだーいと浮かれるのに、ワインをもって押しかけてやろうか、油物のやけ食いで重い胃を撫でながら思う。
昨日の分まで喰ってやると不穏な決意を固めたバーナビーに、虎徹はまだ気付かない。





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