「バニー?」
「………」
「なあバニーちゃん、」
「………」
「もーなんなんだよ、じゃ、バーナビー?」
顔を背けて眉間にしわを寄せて、不機嫌だと全身でアピールするバーナビーに、虎徹は深く深くため息をついた。
デスクの脇にほうってあるボックスに適当に指を突っ込んでキャンディを取り出して、白い包みは何味だったか、と思いながら口に放り込む。
ああミントだったっけと思いながら、もう一つ取り出した青い包み。たしかソーダのはず。
ボックスに戻して、違うのを探す。
引っ掻き回してようやく見つけたピンク色を机ごしに放るとこちらを見もせずにキャッチして、キーボードの脇にぽつんと置いた。

「なんだよ、せっかくバニーちゃんの色の探してやったのに」
言いながら、口の中の塊を噛み潰す。
ごり、と音がして楽しい。
噛むならガムにしろと言われるが、あんな柔らかいもの噛んだ気がしないと虎徹は思う。タブレットは小さいしなにより辛過ぎていけない。
「なあ、何おこってんだか俺本当にわかんないんだけど」
「怒ってないです」
「うそだー、ならおまえこっち向けよ」
「嫌です」
「ほらーおこってんじゃんよ」
言いながらもう一つキャンディを取り出す。さっき戻したソーダ味。包みを剥がそうとしたら少し溶けてくっついている。ぺりぺり小さな音をたてて剥がしたそれを摘まむ。
ぺたりと張り付く感触が気持ち悪い様な面白いような気がして、指を開いたり閉じたりして遊びながら、立ってバーナビーのデスクに浅く腰掛けた。
摘まんだキャンディをディスプレイを睨む鼻先にちらつかせると、心底迷惑そうに見上げる、緑の目。

「なんですか」
「ソーダ味」
「聞いてません」
「じゃあなに」
「だから、構わないで下さい」
ため息つきでそっぽをむく。
前から言ってるでしょう、ビジネスで組んでるだけなんですから。
そう言ってかたかたキーボードを叩いて、マウスを走らせて立ち上がった。
「僕もう今日のタスク終わったので、失礼します」
えええ、と子供のように声をあげるのに女史がいないからといってさぼるなんてとバーナビーは思いながら席を立つ。適当な人間は嫌いだ。

「これからジムかー?」
「ええ、まだ就業時間内なので」
「そっか、なら尚更だ」
振り返るのに、唇に指先を押し付ける。優しくこじ開けるのに緩んだ唇にいいこだとほくそ笑んで、ころりと口の中に甘いかたまりを差し出す。驚いて飲み込まないように、舌に押し付けるようにしてやる。
「甘いものを食べてリフレッシュしましょー」
空腹は怪我の元!とわらって、虎徹は指先を舐めた。食べ物で遊んでいたから自業自得、仕方がないけれどべたつくものはべたつく。ティッシュで拭うほどひどく汚れたわけではないからまあいいかと指先を咥えると、噛み砕いて飲み込んだミントフレーバー一色の口の中、わずかにソーダの味がした。

「ん、熱とか出てねえお前、」
「いえ。失礼します」
無理すんなよ、と声がかかるのに背を向ける。
唇を割って入った指に驚いて、それからその指先をなんの気無しだろうがしゃぶる姿に血が上がった。他人の唾液がわずかであれ付いているのを、こうも無防備に触れるなんてと混乱した頭で思う。
気をつけてな、と呑気な声がかかるのを無視して足早にオフィスを出て、熱い頬とうるさい鼓動に辟易して壁に寄りかかった。
「なんなんだよ……」
そういう振る舞いに慣れていないだけだと、必死に自分に言い聞かせる。
それでも、口の中を甘く痺れさせる飴玉を吐き出そうとは思わなかった。




飴玉





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