小さい手。あったかくてやわらかで、守りたいと思う。それがどうして僕の髪を撫でているんだろう。思って聞く。
「ね、楓ちゃん。なんで撫でてくれてるの」
「バニーちゃんのパパとママ、死んじゃったんでしょ」
だからかわいそかわいそしてあげるの。
あんまり普通に言うもんだから驚くより前に思考が止まる。楓ちゃんはほんの少し前にお母さんを亡くしたばっかりで、まだ小さい心はぱっくり傷口をあいているだろうに。
僕はなんだかんだ、傷口を膿ませたけれど。どろどろ血膿を流して苦しむのを、この子にはさせたくないからそんな話はしたことがないのに。
「ママねえ、楓とパパと大好きだからさよならしたくないなあって泣いてたの」
つよい人だったと聞いている。
写真の笑顔がなによりも物語るのは彼女の精神の美しさ。ヒーローネームの名付け親なのだと誇らしげだった先輩を思う。
「楓が一人でおばあちゃんちいるときね、一人で寝られなくてね、おばあちゃんが撫でてくれると泣かないで寝られたの。だから楓ママのこと撫でたげたの、そしたらね」
一生懸命話してくれるうちに思い出させてしまったのだろう、湿った声を明るく引き上げるこの子の傷は、どうかかさぶたになって皮膚に変わって欲しいと祈る。
「パパもきっとさみしいから撫でてあげてねって。楓のいいこいいこは効くから、悲しいことがあった人にしたげるのよって言ってた。」
息が漏れた。
小さい肩を抱き寄せて、ぎゅうと抱きしめる。
「ありがと」
「効いた?」
僕の傷が腐っているのを洗い流そうと手を伸ばすのをおそれない。
この子といい父親といい、どうしてこんなにしなやかに受け止めてくれるんだろうと思うと、じくじくいたむ心がさみしかったと呟いた。
「うん」
頷いて抱きしめた肩を借りて、潤んだ目を埋めさせてもらった。
いいこ