両側から、手が伸びる。
一対はなめらかな白、もう一対はつややかに黒い。暗がりにぼうとうく輪郭は鍛え上げられてしなやかで、指先がワイシャツのボタンに触れる。
タイガー、と低くかすれた声が呼ぶのに、応えて着衣を脱ぎ捨てる。さらされた身体は細身ながら綺麗に筋肉と、隠し切れない傷跡を浮き上がらせた。厚い唇がためらいもなく吸い付いてくるのに、わらう男。

「ふたり?」「嫌です」
「そう言われても、ねえ。……先様からはどうしてもというならバーナビー一人と」
「あっ駄目っす二人で」「えっ」「お前俺いなかったら二人分だぞ。相当しんどいぞ」「えー……」
「二人でいいかね」
「あ、はい」「……はい」

そんなやりとりを思い出しながら、虎徹は目の前の男に吸い付く。自己管理のできていない、という表現にぴったりな、腹回りとそれにくらべて貧相な手足。たるんだ肌はべたりとしているのにかさついて、触れると気味が悪い。バーナビーの綺麗な身体とは違い過ぎて同じ生き物だとは思えないなあと、余計なことを考えながら口の中を掻き回されるのに従う。舌を絡めて、甘く噛んで、欲を掻き出すようなキス。離した唇に伝った唾液を、舐め上げてやった。ぺったりと舌を這わせて唇をなめて、口の端に吸い付く。
「さすがベテラン」
色を濃く匂わせて笑うのに、艶然とわらいかえしてやる。あー気持ち悪かった、おええ、と腹の中で吐き捨てながら。
淡々と男の肌を晒す作業に没頭していたバーナビーは、下衣を剥ぐ段になってそっと顔を伏せる。唇で挟んでファスナーを下ろす。ノーブルな顔立ちに似合わない下卑た仕草。それに息が荒くなった男に鼻じろみながら、虎徹もそっと指を添えた。バーナビーはその指をこっそり一舐めして、下着ごと取り去って男を素裸にしてやった。

すでにうっすらと膨らみはじめたペニスに、20本の指が絡みつく。そうして男を育てながら、男の片腕ずつが二人の足の間に伸びるのに、媚を売るように片膝をたててにじり寄る。
触れた手に感じ入る演技をしながら、男に触れる指先を時折絡めあって盗み見る。
おいで、と囁くのに頷き合って、そそり立ったそれに口付けた。鳥肌を立てて顔色の悪いバーナビーに、虎徹は眉を下げてわらう。
可哀想に。
それでも逃げられないのだから、せめてもの誤魔化しになればいいと伸ばした舌を合わせてやる。生臭い味の合間に慣れた残り香を感じて、バーナビーの舌がぬるりと動いた。虎徹とバーナビーの唇がかわるがわる吸い付いたり茎の途中で舌を合わせたりしているうちに男は達して満足気にふたりの髪を撫でた。

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
唱えながらバーナビーは男に触れる。一人だったら男を殴ってでも逃げ出したのに、と思いながら、それでもこの屈辱に大好きな人がいるのが嬉しいやら悲しいやら。それでも怖気が立つ度に、虎徹の体や気配や息遣いが側に合るから心がしおたれないですむ。

残りを絞り出す様に指先で撫で上げるようにする間、手持ち無沙汰な唇同士が擦り合わさって絡む。
バーナビーが子犬みたいに口付けに縋るのに少しわらって、優しく吸っていると舌がぬるりと忍び込んで上顎をなぞる。お返しに唇を優しくはんでやる。絡む視線は先程までとちがい、純粋に欲に染まって楽しげだ。
男のペニスに手を絡めながらキスを堪能する。やわらかな舌、慣れ親しんだ感触。没頭しながら、自分自身に指を這わせる。それに感づいて子供みたいに張り合って、バーナビーも虎徹の手を追いかける。それに足を開いて、男を挟んで触れ合う。
あんまり淫蕩な見た目に、度肝を抜かれた様に惚ける男に二人で流し目をくれる。膝で立って、ぐちゃりと音を立てながら口付けあって、互いの性器をみせつけるように合わせて扱く。
つ、と伝った唾液に男が息を呑むのにわらう。
「すいませんねぇ、今度はこっちが盛り上がっちゃって」
「一部始終、見せて差し上げますから」
そうしてまた淫猥なキスをして、虎徹は男を動物のように跨いで肩を押す。
気圧されたように寝転んだ男に、にィと笑って上がった腰。バーナビーの舌と指と、それからバーナビー自身を、順々にぐちゃりぐちゃりと音立てながら飲み込んで、びくりと身体を波打たせながら喘ぐ。
鼻から抜ける様な声を出しながら身体の上で躍る虎徹自身に男の手が伸びた。身も世もなく切な気な声を上げる虎徹は男の上にくずおれて熱い息を短く吐く。
その黒髪越しに刺し殺すような冷たい目線が男を射た。
あまりの殺気にひぃ、と息を詰めた男が意識を飛ばす。

繋がったまま、虎徹がうっそりと頭をあげた。半目になって身体のしたで気を失った男をながめる。
「あーあ、バニーお前やっちゃったなあ、どーすんだこれ」
振り向くのにキスをして、さっさと身体を抱き寄せて背中を抱き込むようにして男から剥がして、バーナビーは憮然として訴えた。
「だってやっぱり嫌だったんです。ああ、帰りたい」
「んん今超気持ちいいんだけど」
体重で呑み込む深さが増えて、奥まで届いてぴったりとひとつだ。慣れ親しんだモノに体は正直にゆるんで吸い付く。
「おじさんは僕のです、誰にもこんなとこみせたくありません」
「はいはい」
振り返ってくちづける。口直しだ。

まあ、ふたりでいく割には大した相手でもないよなあと冷静にそろばんを弾いて、目を合わせて笑う。ひとり分位は楽しませてやっただろうと都合よく計算して、せめてもの心遣いで素裸のまま白目を剥いた男にうわがけをかけてやってから、ふたりはするりとホテルから逃げ出した。



暗がり

10000フリリク企画
早瀬さん
兎と虎でご奉仕








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -