響く声が、自分でない誰かのに聞こえる。冷たく重く、感覚の遠い体。
跨らせられて腰を振るのに汗が散って鼓動が速くて息遣いが煩い。
べったりと体重を掛けて呑み込んでやると、下からえぐるように突かれて息が詰まる。内臓がひっくりかえって、吐き気があがる。ぬうと伸びてきた手に促されて、立ち上がって震える自分を掴まされる。握り込んでしまえば覚えたままに手が動いて白濁が手のひらにべたりと張り付いた。ぐうとひきつれた体の、臍の奥がぬるりとあたたまる。手で口元を押さえる。
くさい。きたない。きもちわるい。
それを勘違いしたのか、舐めたいのならこちらもと、濁った声がわらって引き抜かれる。起き上がった腕に肩を押されて跪いて、ぬるついた手でべたついてしおれたペニスをつつんで扱く。。頭を掴まれて股間に押し付けられて、唇にふれる。
思わず引き絞ったそれにくつくつ笑って、嫌ならいいと、嘯く。その代わりに、誰かの前で話してしまうかもしれないなあと呟いてみせるのに、重くなった体を叱咤して口をあいて、招き入れて「うあ、あ、あ」

目が覚めた。
汗で張り付いた布地はそれでも上質の麻でさらりとすぐにはがれる。ぜえ、と息が固まりみたいに飛び出して気管が痛い。
それでもベタついた身体を起こしてすぐ、シャワーブースで残滓を流す。
乾いてぺたりとした感触に眉がよる。うえ、と呟く。何時の間にか吐かなくなった。いつからだったか。もう忘れた。
夢にみた、「最初」はひどかったと少し笑って、髪から滴る凍る様に冷たい水を、温度を一気に上げたシャワーを被って洗い流した。

「おはよう、ワイルドタイガー」
「おはようございます……申し訳ありません、お待たせした」
「構わないよ、年寄りは朝が早いのでね。君に無理もさせた。いやはや、年甲斐のないことを」
窓辺でラフながら襟のあるシャツとやわらかいベージュのトラウザーズをあわせてわらう姿はまるきり昨夜の冷たい慇懃さが抜けてただ節度ある気遣いと思いやりに満ちた態度。
虎徹は心の中で毒づく。このヒヒジジイ。昨夜は持たないペニスの代わりに恐ろしい程の色の玩具が身体中を苛んでいたのに、朝のロイヤルホテルに似合った穏やかさはいっそちぐはぐすぎて笑ってしまう。

適当に寛いでから帰りなさいと言い残して、控えめにドアをノックした姿勢のいい女性秘書が開けたアタッシェケースから取り出した紙切れに、デスクのペンでさらりと一筆入れた。
それを道ゆく子供に飴玉でも渡す気安さで差し出してくるのに、この老爺が一番気に入っている浅い角度で礼をする。最敬礼では興がそげると以前嫌がられてからはずっとそう。
ヒーローでなければ、この書類を預けようとも到底思えないだろう。戦前から脈々と続く財閥系の、名前を変えた子会社丸々ふたつ分の権利譲渡の合意書を、虎徹は受け取ってきれいにたたんで隠しにしまう。それを見届けてから、ひらひら振られたしわのよった手が、重たい音を立てて閉まったドアのうらに消えた。

ずるりとソファに座り込む。額からべとりと汗がにじむ。はいた息が生臭い様な気がして鳥肌が立つ。
慣れているはずなのにくたびれたなあと冷静に考える余裕のある精神とうらはら、身体は正直に残り香を拾って律儀に嫌がる。
そこに軽やかな電子音がなる。腕に目をやる。昨晩はたとえヒーローの出番であっても鳴らない様にうえが手を回していたそれ。ぷわんとディスプレイに浮かんだのは眉根の寄せてこちらを睨むかわいいかわいいバーナビーで、ううんと考えた虎徹は4コール目で回線を切った。
今会ったらきっと、あの優しい若者は自分の代わりに傷ついてしまいそうな気がする。きれいな金髪とつんけんしてみせる甘えべたの癖に、撫でてやるともっととせびる仕草を思って虎徹はブレスレットに額を寄せる。そうしてしばらくじっとしたあと、ディスプレイの投影画面にそうっとキスをして、指先で撫でてから立ち上がった。





すこしむかしがたり

10000記念フリリク企画
むかしがたり、ややむかしがたりの上司×虎
やまださん





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -