ふんふんと音を立てて匂いを嗅がれる。
喉もとに突っ込まれた綺麗な顔、高く通った鼻梁。いわゆる王子様、みたいな男。

いつものようにうちに来て、酒を飲んで、まわった心地よい酔いを堪能しながら目を瞑っていると、近寄る気配。キスかなと薄く期待をしながら目は閉じたまま、手招いてやると顔の近くの空気が混ざる。
向かい合うように身体を押されて、額から髪を指で柔らかくかきあげられるように撫でられる。あんまり優しくて気持ちがいいのに瞼をあけると、普段の切羽詰まった様な欲に蕩けたのとは違う、穏やかに細まった緑の目が驚いた様にぱしんとひとつまばたいて、動物みたいに胸元に頭をぶつけてきた。

言葉なく、素直に甘えるのが可愛くて同じ様に髪を撫でてやる。金色の髪は細くさらさらしていて、飴細工のようにふわりと溶けてしまいそうだ。
綺麗にセットされた髪を崩す様に手を大きく使って撫でてやると、ことんと肩に頭。それからゆっくり身体をあずけてのしかかる。ソファに寄りかかっているからたいして重くもないが、男の大きな身体が懐いてくるのがこんなに違和感なく心が受け止めているのに、苦笑しかでない。
不意に腕を取られて、てのひらを眺めて触ってひっくり返して撫でたあと、匂いをかいで不意にぺろりと舐められた。小さく声がもれたが、お構いなしに存分に見分される。なにがしたい。

そうしてもう一度喉もとに突っ込みなおされた頭を軽くはたいてきくと、なんだか甘いようないいにおいがする、と呟いて深く息をした。
かわいいこといいやがって。
顔に上がる熱をごまかすように、丁寧な触り方から一変して乱暴に髪をかき混ぜてやる。髪が絡もうがちぎれようが知ったことか。

さっきまできれいにとかしつけてやっていた癖っ毛が、好き勝手に跳ね回ってふくらむ。やめて下さい、綺麗な顔が目前にせまって不機嫌に言った。怒っているというよりは、ふてくされたような子供の顏。ふわふわになった髪と相待って普段のMr.パーフェクトっぷりが見る影もない。寝起きすら綺麗なこいつには、あり得ないようなラフな見た目にくっくと喉が鳴る。
子どもの頃から短くするとくるくると巻いてしまうのが嫌で長めに伸ばしているのだと、気まずそうに言いながらのろのろ起きあがって髪に触る。眉を寄せて絡まりを指先で触ってため息をついて、ゆっくりとほぐし出した。

苦戦しているのを促して身体の上からどかして、ソファに座り直して床を指す。おとなしく床に座ってソファの
座面に寄りかかって、ちょうど足の間にきた頭をそうっとといていく。かた結びになっているのや、巻き毛同士がからまっているのを指先でつまんでいくうち、ほうっと息を吐く気配。痛かったかと指を離して撫でると、もっとやれと言わんばかりに仰向いてこちらをじっと見てくる。なんてかわいいんだろう、とぬるま湯にひたされたような心で思った。

手櫛が素直に通るまでにしてやってから、振り返らせてもう一度顔にかかる髪を撫でつけてみる。
あらわになったなめらかな額。
いつもの優男然とした印象がきりりと精悍に見えて、ためつすがめつ眺めて輪郭を辿った。すっきりとした頬、細いが貧弱ではない顎のラインをたどって喉。
額をもう一度指でなでてから唇で触れると、離れ際に伸びてきた手に引き下ろされて、唇につかまる。
そっと口づけるだけのキスをして、額を寄せ合う。
ひたりと体温があわさって溶け合う。
鼻先がくすぐったくなってすりつけると、どちらともなくくすくす笑いがもれた。




トーキー






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -