※7話劇中



すかしたかっこつけが、はじめてあんな顔で怒鳴った。怒鳴った自分の声に自分が泣きそうな青い顔をして出ていった。
それだけショックだったんだろう、それだけ感情を腹に溜め込んで一人鬱屈していたのだろう。
どれだけ耐えたのだろう。
気付くと、体が勝手にあいつを追いかけていた。頭ではそっとしておいてやれ、と警鐘がなりっぱなしだ、自分だって近寄られたくはない、妻をなくした時はそうだった。
それでも、どれだけ荒んだ自分がはねのけても傷つけても、追いかけてきては一緒に泣いてくれた人達の手は、確実に自分を元の世界に引き戻してくれた。
友達なんかいなさそうなあいつに、それをしてやれるのは、相棒である、俺だけだろう?

逃げた。
必死で逃げた。
あの日の記憶から、燃え盛る炎から、手からやすやすすり抜けてみせたあのNEXTから、そして不甲斐ない自分と、苦虫を噛み潰したように辛い顔をした、先輩から。
エレベータがあいてから気付くと全力疾走していたせいで荒い息と一緒に、なぜだか冷や汗が噴いた。吐き気がする。息がうるさい。心臓が痛い。
目の前が、くらい。

見失った。
どこに隠れたんだと、腕の通信機を鳴らす。案の定、出やしない。
それでもきっとあいつは今、どこかで潰れそうになりながら悲鳴をあげているんだろう。
泣けているならまだいい。そばに誰かいるならずっといい。
けれどあの格好つけの若造は、一人で唇を噛んで必死で背を伸ばして、震える肩を怒らせているんだろう。
こっちへおいで、とねがう。
背中をどやして、泣いて癇癪を起こすのをあやすくらいはさせてくれろと、そう思う。
けれどじっとり暗い街は、バーナビーを飲み込んで静まり返る。
ちいさくこぼれたのは、自分自身にも向けた罵倒だった。



ようやく全て終わって一息ついたかと思ったら、引きずるように捕まえられて、相も変わらず殺風景な部屋に放り込まれる。
早業で剥かれて泣かされて突っ込まれて、さっさといかされて放たれる。
そうして俺をテディベアみたいに後ろからぎゅうぎゅう抱きしめているバーナビーが、深い深い息をした。バーナビーの埋まった首筋がじっとりと熱い。
あんまり手際のいいのに感動すら覚えていた俺は、いくら事務的なセックスでもやっぱり多少はべたべたになった手を、半端に剥がされたワイシャツで適当に拭ってから背後のくるくるの髪を撫でてみた。そうしたらふるりとふるえてすりついた身体から、抑えきれなかったのだろう小さな嗚咽。
中途半端に服をきて床で繋がったまま、背中にくっついて泣く男をあやすのはいくらなんでもはじめてだなあと思って、口元に苦笑いがのぼってくる。
無理にあげていた手が疲れる。腹に回っている手をぽんぽん叩いてやると、片方だけほどけて指が絡まった。
んんん、そうじゃなくて。
思ったけれど、今日は好きにしたらいいさと身体の力を抜いて寄りかかった。





おいで





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