※なんでかバニーもナチュラルに子育て
※×じゃないっぽい
※捏造楓ちゃん






虎徹が愛して止まない娘の、次は必ずと約束していた授業参観。緊急出動で毎度のことながら、間に合わなかった。

父親参観ということで、体育に親たちも参加する旨の通達と、動きやすい服装と靴を指定したプリントを、虎徹とバーナビーはひと月前からコピーをとってデスクとロッカーと冷蔵庫に貼っていた。忘れないように、念には念をいれていた。そんな日に。仕事熱心な虎徹にしては珍しく、上司にも噛み付く。
育休今くれ。半日でいい。
珍しく直属の厳しい上司達さえずっとそわそわしていた彼を知っていたから味方したけれど、視聴率をこよなく愛するジュベール女史には逆らえず。
あえなくワイルドタイガーは毎度のように出動してバーナビーの素敵な引き立て役をした。

事件が解決してすぐ、ふたりはだまって社のトラックに飛び込んで、ぴったり1分で動きやすい服装と靴に着替えて脇目も降らずに飛び出した。
使える高速には全て乗り、ありとあらゆる裏道を例のバイクで爆走した。サイドカーは邪魔なので取っ払い、バーナビーはなにも言わずに虎徹に運転を譲ってナビに徹した。
そして滑り込んだ校門前で通学用のリュックを背負って膨れて手を組んで待っていた娘にヒーローであることを伝えていない虎徹は、急にどうしても抜けられなくなって、何時もの手を使うしかなかった。
バーナビーは素直に急な出動があって、と頭を下げた。

そうして賢く優しい女の子は、仕事なら仕方が無いとバーナビーに笑って、またか!と父親を一喝した。
「ごめん!ごめんな楓ええええ」
「もーやだ知らない!」
「違、だって、そんなあ」
楽しみにしていたのだろう、普段から高く結っている髪に、綺麗な飾りのついたゴムが結ばれていたりだとか、この日の為に気に入っているTシャツをしばらく着ないでいたりしていたことを、バーナビーは知っているからしばらく止めない。
それでも楓の口元が震えるのを見て助け舟を出す。
一応娘にヒーローたることを伝えたくない意思は尊重して、急なお仕事だったんだよ、とだけ言ってなだめる。
普段から聞き分けのいい子供は、それでもほんのかすかに潤んだ目元をせき止めるようにそっぽをむいて、パパなんか嫌い、と呟く。
バーナビーを挟んで、二人ともが傷ついた顔をした。
「楓ちゃん、あんまりいじめないであげてよ」
泣き出す寸前の顔の楓の頭を撫でてやる。と、ぽろぽろ静かにあふれだした涙にバーナビーは切なくなって、虎徹に背をむけて楓を隠すように抱き締めて頭を撫でる。ぎゅう、と小さな手がTシャツの裾を掴んで震えるのに、背中をあやすバーナビーの鼻もつんとした。
「んん、でも」
くすん、と鼻を鳴らしながら、楓が珍しく駄々をこねた。普段から聞き分けがよくて、おとなびて、片親しかいないのを気にする様子なんかみせない、よく出来た優しい、ちいさい子ども。
両親をなくした自分は他の心を砕いてくれた人に頑なだったけれど、この子はまっすぐ素直に育って、それでも確かに気遣いが普通に恵まれて育った子どもよりずっと濃やかなのが切ない。そんなに我慢しなくていいんだと、こちらの心がよほど痛む。自分もそんな思いをさせていたのだろうと思うと苦笑がもれた。
「あああ楓ごめん、ごめんな、パパが悪かった、っていうかバニーなんだお前ダメダメダメ楓パパんとこおいでこっちこっち」
わあわあと騒ぐ虎徹に泣き顔をみせまいと、一層バーナビーの腹に顔を埋める。それを、背中を抱いて促してやる。
泣いていいよ、君はもっとそうしてさみしがっておこって、がまんなんかしなくていいんだ。
「バーナビーさんがパパなら良かった。かっこいいし、優しいし、みんなに人気のヒーローだし」
「そう?嬉しいな」
ぽろりと呟くのに笑みがこぼれる。こころから光栄で、ものすごく誇らしい。その一言で浮かれるくらい、バーナビーは本当にこの子をいとおしいと思う。けれど。
「かーえーでーえええええ」
「でも僕相当楓ちゃんのこと好きだけど、先輩はきっとその何百倍も楓ちゃんを愛してると思うよ」
道で身も世もなく嘆く男は自分以上に心を痛めているだろうことは簡単に見て取れる。そして、それはきっと、この優しい子が一番よく知っている。でなければ、こんなにまっすぐに育つわけがない。
「ん」
「わざとじゃないんだよ、」
言い募ると、小さな頭がこつんとぶつけられた。小さい声で、囁く様に告げられたことばに、胸が締め付けられる様に暖まる。
「……知ってる。」
今日、いつもみたいにみんなお母さんじゃないから。お父さん、体育ならすごい得意だから。
その言葉の裏にはきっと、その度心を痛めていた父親への気遣いが確かにある。
小さなレディに、心からの気持ちで言う。
「そう。楓ちゃんはいい子だね」

「うううううこれが親離れってやつなのねえ教えて俺わかんない切ない悲しい苦しい悔しいいいいいいちくしょーバニーのくせにばーかばーか」
ついに背中を丸めて壁に向かって小声でつぶやき出した虎徹に、涙を拭いてバーナビーさんごめんねありがとう、と笑って見せた楓が、うっそりと目を細めて睨む。
「……ねえ、パパってお仕事の時もああいう感じなの?」
「……全然?」
目を逸らして口ごもって答えたバーナビーに、ため息をついて言う。
「そうなんだ。ごめんね、パパのこと叱っていいよ」
「うん、ありがとう」
ヒーローのサポート方だと言うことになっている虎徹。そのせいでバーナビーとかかわりがあることにしてある。それでもどこか見透かされたような言葉に苦笑がもれる。
すごいなあ、女の子って。素直に思って礼を言った。こんなに年下なのに勝てる気がしない。
「仕方ないなあ、もー……アイスで許してあげようかな。ダブルでなきゃ論外だけど」
「……僕はもっとなんかこう、フレンチフルコースとかでもいいと思うよ」
「ダメだよー、パパ破産しちゃう」
それにわたし、パパのフレンチトーストのが好きだし。よく焦がしてるけど。
そう言って笑って、しゃがみこんで、めそめそじめじめしている父親に駆け寄って背中を蹴飛ばして恥ずかしいでしょうと促して、しょぼしょぼ立ち上がった男の手を掴まえる。
この後は今日もうおやすみ?と聞くのにがくがく頷いている虎徹はきっと、この子のためなら何も惜しまないだろうに。
それでもこの子はもう、自分の為に砕かれる心のほうがずっと尊いと知っている。
しがみついている手と逆のほうで小さい白い手がひらひら呼ぶのに、バーナビーも小走りに駆け寄った。





君よ幸せに





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