むかしがたりの虎徹サイド補完
※兎虎前提ですが他虎・牛虎表現あり
※同意のない性行為をほのめかしまくり
※嫌いな方はバックプリーズ








濡れた足裏が、フローリングに吸い付いて足音を立てる。
自分としては少し長すぎるきらいのある髪を、タオルで拭う。今度の休みに散髪に行こうと決めた。
ソファで伸びている男の相棒のように素顔を晒しているわけでないから、髪型でイメージが損なわれたのなんのとスポンサーから指摘を受けることもない。本名と素顔を晒してしまえば、ヒーローなんてプライバシーもなにもなくなる。夜道で襲われでもしかねない。それでも自分自身をメディアに晒すのは、ただの出たがりや会社の目論見の域を越えて、厄介な色々があるのだろうと思う。

「虎徹、そこで寝るな」
「うう…、おきてる……」
細いが、華奢というのとは真逆の体。こいつのルーツ、イワンが心酔する国の伝統工芸の刃は、ぞくりとするような佇まいがなんとなく似ているように思う。
髪を拭きながら、背もたれ側からのぞくとよろよろと腕があがる。
貸してやった部屋着と他人のうちのソファで自宅のようにくつろいでいるのに苦笑して、その手を掴んで引いて起こしてやると振り返って胸ぐらをつかまれて、片手に持ったビールをひったくられる。

「お前なあ」
「喉乾いてんだよ」

鼻先が触れそうな位置で大あくびをするのに苦笑する。そのまま奪ったビールを喉を鳴らして幸せそうに呷る虎徹を眺めていたら、ついでとばかりに口付けてくるのにされるがままになってやる。
苦味が、唇ごしに響いた。


ヒーローTVが視聴率をあげたとはいえ、NEXTは長らく恐れられる存在で、異能者で、つまるところ異端。
親が子供を恐れて、国家のシンクタンクに委託という名目で子捨てをすることがまだ普通だった時代に、虎徹とアントニオは育っている。

幸いにして、レジェンドがまさに伝説的な手腕でもってイメージアップを図る前であっても、アントニオの親は世間に流されることない見識と愛情でもって、能力を発動した後も変わらず守り育ててくれた。けれど虎徹の両親、ことに母親は能力者である息子を恐れ、虎徹はエレメンタリー卒業と同時に家を出たらしい。

NEXTを受け入れる国営の学校に、渋る親を説得してハイスクールから入学したアントニオと、ジュニアハイの間に生来の伸びやかな気性を取り戻していた虎徹は、寮で出会った腐れ縁がもう人生の半分を超えた。


そんな虎徹がようやく掴んだ家庭。優しく聡明で、なによりNEXTである虎徹を恐れることなく微笑んでいた奥方のことを、アントニオはよく覚えている。
子どもができたと照れ臭そうに、幸せに溶けた顔をして笑う虎徹をみた時の、少しの羨ましさとなによりも安堵で胸が熱くなる感覚。
ああもう虎徹は、睦まじい家族を見る度に眩しそうに微笑まなくてもいいのだと、そう思って肩をどやしてやった感触を、アントニオは覚えている。

そしてそれを不意に無くして、荒んだ生活をしていたのをも。
眠れずにいる目元はアイマスクなしでもくっきりと黒く隈どられて、まともな食事も取らずに酒だけ煽っていたせいで、もともと細身だった体は肉が削げた。それでも普段通りに快活に振る舞ってみせるのが痛かった。
まだ小さかった楓を一人置いて夜に仕事には出られないからと実家に預け、出かけたまんま親が戻らないだなんて切ない思いは一度でたくさんだろうと笑って、猫可愛がりしていた娘と別居を決めた。
いつ死ぬか、わからない。ヒーローという仕事は華やかな見た目の裏側で、いつだって危険と隣り合わせであること位、ブルーローズやホァンだって飲み込んでいる。

そうして、もう一度ひとりぼっちになった虎徹は、さんにんの家に帰るのが辛いと毎晩河岸を変えてはしたたかに呑んだ。

そんな虎徹に付き合ったり付き合わなかったりで三ヶ月ほど経ったある夜、バーで親し気に虎徹の肩を叩いた男。虎徹は軽く手を上げて、自分とその男とに、それぞれ友人だと紹介する。男にしては長い、黒く波打つ髪を前髪ごと後ろでくくったどこか洒脱な印象の、普段の虎徹とはかけ離れた世界の匂いをまとった男。何事か囁きあってくつくつ笑った挙句、じゃあと手を振って別れる。
喉に引っかかった小骨のような不快感を残す出来事だったとアントニオは回想する。

「お前なあ」
ソファに回り込んで座って、今日のニュースを垂れ流すスクリーンを眺めながら不本意ながら飲みさしのビールを煽る。苦味と、喉を滑り落ちる炭酸の刺激が染み渡るのに息を吐いた。
のんびりとソファに身を埋める男は、当然のようにアントニオをクッションがわりに寄りかかる。
「バーナビーとは仲良くやってんのか」
「んんんよくわかんねえ。かわいいけどなんかすげえ気難し屋でそこがまたかわいい」
なんだそりゃ、と笑ってやる。
きっと鷹揚にみえて危ういこの男と、
危うく見えて青臭いけれどしなやかでつよい精神の若者はなんやかんやと息があっているのを知っている。
そうしてそれから、恐らく虎徹が今日ここにきた理由を先回りして聴いてやった。
「例のエロハゲガリオヤジ、だったか?もう終わったんだろ?」
「ん。何度か行ったけど最後まではげてた。素晴らしくハゲ散らかしてたのにアホほどスケベだった」
すげえぞー、カネにあかせてオモチャ死ぬほど買ってんの。あんなんがトップにいっからシュテルンビルドはいつになってもイマイチしまんねぇんだよー!
言ってじたばたと暴れるのに、肩を抱いて頭をなでてやる。
「そうか。頑張ったな」
「まあなー。これでしばらくいいだろ」
ヒーローなのに、誰よりも強く、孤高であることが出来るのに、この男は誰かを守れるなら平気で自分を地に落とす。そうして軽やかに、笑って見せる。
「ごめんなあ」
「いや俺どんなに偉くてもお前抱きたくねえわ」
重くなった空気を、ざっくりと混ぜ返す。構うな気にしてくれるなと、無言の要求に答えて同じく軽く返してやる。
「ファイヤーエンブレムからの不動の支持をうける俺になにを言うか虎徹」
ひひ、と悪ガキのように笑って膝にのしかかってくるのを、空き缶をローテーブルに放ってから捕まえてやる。

あの夜、あいつが紹介して見せたのはあいつがはじめてまぐわった男で、それをべろんべろんに飲ませた時に聞き出した俺は相当な剣幕で怒鳴り散らした。
けれど虎徹はそうして無理に人と触れていなければ壊れそうなのだと、すさんだ目を一層くらくして言った。
それを、じゃあ俺でもいいなら俺にしてくれと言った時、泣きそうな顔で首を振って、アントニオは俺を叱る係だと呟いた。

そうして男に抱かれて浮かれたり泣いたり殴られたり殴ったりして来た虎徹をその度叱りつけて、ようやく落ち着いて悪癖を止めたのに安堵していた。いや、油断していたというべきか。
過去の悪行を聞き及んだ当時の上司が情報をマスコミに売ることをちらつかせながらあいつを無理に抱いた。
なんだかんだ男相手でもきちんと合意の上で遊んでいただけの虎徹にそれは相当なショックだったようで、その晩俺の家に転がり込んで吐いて泣いてしたたかに飲んで、そして忘れさせろとねだったあいつを俺は抱いた。
積極的に欲が湧くことはなかったが、触れば立つし擦れば出る。
それよりも虎徹をなだめてやるために、俺は人肌を提供してあやしてやっただけだ。そこには恋愛とか欲とかそういう感情よりもずっと淡く曖昧な、傷のついた仲間を舐めてやるような、動物めいた感覚だった。

そいつづてに虎徹は妙な趣味の奴らに呼び出されることが増えて、その度俺のところへ来て、同衾をせがむようになった。
虎徹は絶対に断らない。断ればそいつらは次に、きっと折紙や少女たち、もしかしたらバーナビーをターゲットにするだろうと知っているからだ。
そして自分がヒーローを辞める時に、そいつらのしていたことも全部あからさまにして道連れにしてやると笑う。

だったら俺は、虎徹が踏ん張っているのを後ろから支えてやればいいだけの話だ。重さに折れそうな時は一緒に負ってやればいい。
どんなことでも、腐れ縁の友人としては面倒をみてやろうと決めている。




ややむかしがたり




ピロートーク的な
「バニーにさー、今まで付き合った男何人?って聞かれたからバニーいれてふたりっつったらすげー不機嫌だったんだけどどう思うよー」「あああいつか、一年前位だったか」「そー。バニー多分お前だと思ってるっぽいけど」「はあ?俺と?虎徹?」「な、意味わかんねえよあいつ、若いくせに疎すぎるよなー」「ああ、全くだ」


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