さらさらした黒髪を撫でてやると、いつもと同じように声がした。
ああ嬉しい幸せ、あっでもどうしよう汗がにおいが。嫌じゃないかしらべたべたしないかしら。ああでもいいきもち。嬉しい!
思わず笑う。傾げた小首にあわせてさらんと髪が肩を滑る。
赤い眼鏡と派手な化粧、背中と腕をむき出しにして体のラインをまるで隠さないような服を纏ってなお、恥じらう心持ちが心底愚かで間抜けでかわいらしくて愛おしい。
「お前はほんとに俺がすきだなあクリーム!」
それにいつも通り、不思議そうな顔が唇を尖らせながら言った。
「ええ、ジェイク様は世界で一番で唯一の、私が大好きな人でしてよ?」
かなわないと思う。能力を使わなくても使っても、裏表なく慕う相手にはこんな能力は必要ない。
ちゅっと額にキスを落とすだけで、しあわせすぎてわたしいますぐ死んでもいいわと囁くような、イノセントな女の子。
アッバスから出てすぐの自分を、大量の食べ物と酒と趣味に合う服と、それからヘアサロンの予約をとって待っていた。
今度は自分が用意して置いてやる番だけれど、彼女はだいたいにして「ジェイク様はどんな私なら気に入ってくださるかしら」しか考えないので、適当に自分がいいようにして待っていよう。
なるべくなら、しばらく待たせてくれる方がいいと思ったけれど。
「なあおいクリーム、はえーよバカ」
寄ってくる気配が、すっぴんだと躊躇しているのに、ああ化粧道具を揃えてやらなかったなあと思う。
「あーも、ほら、気にしねぇから。こいこいこっちこっち」
「いやだそこは読まないでおいて下さいな恥ずかしい!」
「しょーがねえだろお前そこにいるのに話しねえんだもんよ」
ほらおいで、俺のかわいいかわいいおばかさん。
イノセント(無垢)=馬鹿という意味で使われることが多いそうです