おじさんが能力減退に気付いてヒーローやめたときのはなし





目の端に、見慣れた赤が横切った気がして思い切り振り返る。
目線の先には綺麗にはねさせた金髪の変わりに切り揃えられた明るいブラウンのボブヘアの、背の高い女性が突然の挙動に戸惑いがちに微笑んで見せた。
それにハンチングを軽く持ち上げて謝罪する。
失礼、知り合いに似ていたもので。
きれいな笑み一つで鷹揚に謝罪を受け入れてヒールを鳴らしながら去る背中は、ぱきりと彩度の高い赤のブラウスに似合ってきりりと姿勢が美しい。

赤を着る人は自信に満ちているか、自分自身を奮い立たせたい人だという。果たして自分が彼女と見違えた男はどちらだったろうと、ぼんやり思って虎徹はわらう。
どちらでも変わりはないのだ。何せもう、バーナビーは自分の、ワイルドタイガーのバディではなくなったのだから。

虎徹が能力の減退に気付いて、それを食い止める特効薬も対症療法もないと知った時、彼は研究者にすがった。どうか自分を実験動物にしてくれて構わないから、これを食い止める手立てを探して欲しいと。
彼は誰よりヒーローという仕事に誇りを持っていて、その誇りの源となった人が自分と同じ状態になって落ちぶれたのだと知ったからこそ必死になって提案したのだ。
自分はもう間に合わないならそれでもいい、どうせ役にたたなくなるのなら、あとの世代の礎にしてくれろと、そう。

例えばスカイハイが、ドラゴンキッドや折紙やブルーローズが、戦いのさなかでその兆候を見逃したまま自分と同じく徐々に徐々に、やすりで削り取られるように能力を失っていくとしたら。考えるだに恐ろしく、そしてヒーローという存在を揺るがすことになりかねないと、訴えた虎徹にお前はそれでいいのかと、囁いた研究者に虎徹は笑った。

おじさんはおじさんなりに役に立たねえと。

それから、虎徹は自分で記録していたデータと、兆候を示したときの状況を洗いざらい伝えてから、ラボに通い詰めた。
能力発動のタイムラグ、リミットの時間の縮み方と能力発動回数の関係性、日々の健康状態や年齢、能力発現からの経過日数との相関。
取れる限りのデータを集めて、ときには三日三晩ラボのマシンに繋がれっぱなしになることもありながら、それでも虎徹はヒーローだった。

発動時間が2分半を切ったら引退すると、そう決めたときも笑っていた。
そしてその時、ヒーロー達を集めて虎徹は彼らの前で洗いざらい話した。

能力は稀に減衰することがあること、自分もそれであること、そのために引退すること、兆候を見逃さないように気をつけること、もしそれがあればすぐに担当者に伝えて斎藤氏に連絡をとってもらうこと。

ショックに青ざめる少女達の頭を撫でて、唇を噛む少年の背を叩いて、目を伏せた青年の肩をどやす。うすうす察していたのだろう腐れ縁と怪しんでいたらしい同輩に笑いかけて、それから一発頬を殴って飛び出していったバディを追いかけた。

HERO TVでは、能力の減衰に関しては伏せたまま、ワイルドタイガーの引退を告げた。新たなキング、バーナビーの相棒が引退するとあってかなり大掛かりな特集を組まれて、バーナビーと虎徹の最後のセット売りだとばかりに取材や特番の収録がひっきりなしにかかった。
アニエスの笑いが止まらない程度には視聴率を稼いだそれらの番組で、バーナビーがワイルドタイガーへの思いを語り、ワイルドタイガーが身体能力の衰えを隠して戦っていたことを報じるや、ワイルドタイガーの人気が急上昇した。
それもあってメモリアルDVDやら、マンスリーヒーローの特別増刊号まで企画され、虎徹は仕事に引っ張りだこで、遂に引退式と言う日になるまでバーナビーと顔を合わせる日がなかった。
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