真冬になった東北の地は、吹きつける真っ白の雪が村全体を覆う。
昨日は戦場だったこの村も、赤色からまた元の白に戻っていた。
そして、村の中心部近くにある小屋────いつきの家にはいつきともう一人、同い年位の少年が眠りについている。
この少年は昨日この村に攻めてきた織田の小隊を引き連れてきた者だ。織田軍に間違いないだろう。前髪を上で結い、特徴的な弓矢を構えていた。
だが、戦でかなりの深傷を負ったらしく気を失っていて、敵であれど年の近い者、見捨てるのはいつきの良心が許さなかった。
そうして彼を自身の住まいに運び、寝床としているわら布団に寝かせておいている訳だが────。
(血は止まったみてぇだが……傷が痛々しいべ……)
生憎薬と布を切らしており、水で軽く洗って止血しただけなので切り口が丸見えで、目を背けたくなる程に醜い。
その傷のせいで少年は一向に目覚める気配がないが、脈はちゃんとある。
(死なせる訳には、いかねぇだよ)
織田軍であろうと、少年だって人。小さな少女の優しさ故の思いだ。
名も知らない少年の右手をそっと握る。血の気のない青白い手になっていた。ひんやりとしたその手を自らの手のひらで包み込んで、いつきは思う。
(おめぇさんも、この手でたくさん殺してきたのか?この手は、赤いのか……?)
魔王と恐れられる信長の臣下にあるならば、この同じ歳の少年も沢山の兵を殺めたのだろう。それはきっと、自分にも当てはまることだが。
(雪みてぇな白い手に赤が重なって……)
いつきは、一面の銀世界となった外にふと目を向けた。
(そしてまた白くなって、綺麗に見せてるだけなんだべ……)
握る少年の手から伝わるのは、冷たさと罪。
時は戦国、本当の白は、もう無い。