思えば、あれはまだ18歳の頃。

テレビに映る兄の姿を追いかけて受けた、小鳥遊事務所のアイドルオーディション。そこから始まった、IDOLiSH7のセンター、七瀬陸としての道。
デビューからちょうど1年がたった頃、BLACK or WHITEにて初めて直接目にしたトップスターの彼と、このような関係になるとは誰が想像出来ただろう。

「陸ももうオトナだもんねー……ふふ、お酒飲めるのかぁ」

彼はそう言って寄りかかっている陸の頭を撫でてくれる。
一年前からもう既にアルコール類は飲める年齢だが、彼にとって陸はまだ酒の飲めない子供という認識らしい。
わざとらしく頬を膨らませてそっぽを向いてみせると、ごめんごめん、なんて彼は笑って謝ってくる。
まぁ確かに飲めるとはいえ、陸はとてつもなく酒に弱い。
対して彼は度の強いものを相当飲んでいるというのに、少し頬が赤いだけで変わりはないように見える。そんなところに、彼が自分よりもずっと大人であることを感じてしまう。

陸の頭を撫でる彼の手は大きくてあたたかい。酔いが回っているせいもあるのかだんだんと眠くなってくる。

「……百さん」

「んー?なーに、陸」

「おれ、百さんとこうやって一緒にいれて、すごく幸せです」

そう陸がぽそりと呟くように言うと、百は目をぱちぱちとさせ、くしゃっと笑ってぎゅっと陸のことを抱きしめた。

「うゎっ……!?」

「俺もっ、陸と一緒にいれてすっごくハッピーだよ!」

……見た目とは反して百はずいぶん酔っているらしい。
でも少し痛いくらいに抱きしめてくる彼がやっぱり好きで好きで、陸もたまらずぎゅっと強く抱き締め返した。


***


馴れ初めは何時だっただろうか。
ふとそんなことを百は思い返す。

眠くなってきた、と言う陸と一緒に布団に入ると陸は早々に眠ってしまった。
手を出すつもりは無かったので別に構わない。代わりにまたぎゅっと陸のことを抱きしめる。

出会いはBLACKorWHITEで総合優勝を果たした二年前のあの日で、ちゃんと面と向かって話したのはその少し後くらいのことだった。当時から既に可愛い後輩という位置付けだったのは覚えている。
ほっとけなくて、何かと世話を焼きたくなるような、守りたくなるような、そんな陸のことが可愛かった。
元々アウトドア派で友人も多く、オフの日にはだいたいどこかに出かけている百は、他のIDOLiSH7のメンバーと一緒に陸を一緒に連れていくようになっていった。
お互い人気アイドルグループの一員なのでオフがなかなか被らないこともよくあったものの、オフが被れば毎週のようにどこかに出かけた。
最初は百と友人たちの中に陸たちが入る、という形であったそれは、だんだんと百と陸の二人きりのものになっていった。この頃から陸に対しての感情が、ただの後輩可愛がりな気持ちだけではないような違和感はあった。

とある日のこと、楽屋で陸が可愛くて可愛くて仕方なくて、なんてことを千に話していると、相槌を打ってくれていた千がふとこんなことを言った。

「……百は陸くんのことが好きなの?」

いつもの会話のように、ふわりと微笑みを浮かべてそう千は訪ねてきて、百は直接的すぎる表現のそれに驚いてへ……?と間抜けな声を出してしまう。

「……確かに陸のことは可愛いし大好きだよ?」

「そうじゃなくて。例えば僕は相方としての好き、TRIGGERくん達とかほかのIDOLiSH7の子達とかは後輩としての好きだろうけど、
……陸くんに対しては、僕や他の子達とは明らかに違う"好き"でしょ?」

「えっ……それってつまり、俺が、」

「……陸くんに恋してるよねってこと」

すとん、とその言葉が腑に落ちた。
陸はただの可愛い後輩、という言葉に対して生まれていた違和感は恋だったのだ。
途端に頬が熱くなって、心臓がどきどきと音を立てる。なんだか恋、とはっきり言われてしまうと急に気恥ずかしくなってしまう。

「僕は応援してるよ。百と陸くんのこと」

フフ、と笑う千の顔はいつも通りイケメンで、百はますますぼわわっと顔が熱くなるのを感じた。

それからはますます百は陸とよく出かけるようになった。
陸が主に一織から体調がなんだと口出しされていたようなので、百の家に陸を入れて映画を見たりする、いわゆる家デートのようなものも増えた。
陸は普通ならしつこいと思うくらい遊びに誘ってくる百にも、オフが被っていれば全部快くOKを出してくれていたし、むしろそれをわざわざSNSに投稿するくらいには喜んでくれていたようだ。
それを見て思わずニヤけが抑えきれずにいたことも事実に変わりない。

だから百から陸に告白したときも、陸は驚いたような顔をし、その後すぐに笑って、
「俺も百さんのこと、好きです」
と返してくれた。
2人が出会って、2年目を目前としていた頃のことだった。
未だにこの関係は秘密にしていて、話しているのは千と、たまたま二人で親しくしているところを目撃されてしまった大和だけだ。
千はともかく大和に話した時は心底信じられないといった表情をしていたが、彼も陸のことを可愛がっていた一人だ。
うちのセンター幸せにしてくださいね、なんて言って、大和はそれを秘密にすることを約束してくれた。


規則正しい寝息を立てて眠っている陸の前髪を指ですくい、あらわになった額にそっと唇を落とす。まだ唇どうしではしていないけれど、いつかはそうやって関係を積み上げていく、つもりだ。
陸のことをもう一度、ぎゅっと優しく抱きしめる。陸の体温がそこにあって、それがとても愛おしくて。大好きな人を抱きしめて、百は幸せな夢を見る。

ずっとずっと2人で、いつまでも続く未来を照らしていけたらと、願いながら。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -