01
※現パロ
「帰ったぞー」
「お帰りなさい」
パタパタと玄関へ向かい、帰宅した官兵衛さんを迎える
同棲を始めてからの日課だ
事情があって住むところに困っていた私を、会社の上司である官兵衛さんに助けてもらったのが、一年ほど前の話
男の人と二人、しかも自分の上司と住むのもどうかとは思ったが、そんなことは言ってられない状況だったのと、部下からは何かと慕われている人柄を信じて一緒に住むことに決めたのだった
一緒に暮らしているうちに、仕事場ではしっかりしてるくせに、プライベートではドジふんでばっかりだったり、真面目にしてたかと思えばふざけてみたり、今まで見たことのない官兵衛さんを見て、少しずつ惹かれていき、ついに恋仲にまでなったのは、つい先日のことだ
「……官兵衛さん、何してるんですか?」
玄関へ向かったところで待っていたのは、ニコニコと両手を広げて立っている官兵衛さんだった
「何って、こういう時にはお帰りのチューが定番だろう?」
「は!?え、いや、ちょっと待って!」
若干引き気味の私の反応など余所に、ほれほれとジリジリ近付いてくる
恋仲になってからというもの、官兵衛さんの私へのスキンシップが日に日に大胆になってくる
「か、官兵衛さん、ストップ!」
「っふげ!」
迫ってくる官兵衛さんの顔を押さえて、私からそらすために横に捻る
ちょっと強くし過ぎてしまったのか、官兵衛さんから呻き声があがった
「ご飯!ご飯がもう出来てるので冷める前に早く食べちゃいましょう!」
「へいへい。しかし、もう少し手加減をだな…いててて」
「う、ごめんなさい…」
首を押さえる官兵衛さんと一緒に部屋へ向かう
相手は好きな人なのだし、嬉しい事なのだが、そういう経験が今までなかった私にはそれ以上に恥ずかし過ぎる
ましてや、ついこの間までは普通に暮らしていたのだ
この変化を受け入れる余裕がまだない私は、こういう時の官兵衛さんに対して、ついつい冷たい態度をとってしまっていた
「ごちそうさまでした!お風呂も沸いてますけど、官兵衛さん先に入ります?」
「いや、小生は見たいテレビがあるから、優菜から先に入ってきていいぞ」
「そう?じゃあ先に入ってきますね」
食べ終わった食器たちを片付け、私はお風呂へ向かった
官兵衛さんにあわせて入れたお湯は、私には少し熱いので、水を少し足してからゆっくりとお湯へつかる
ほどよい温かさで気持ちいい
シンとしたお風呂に、官兵衛さんが見ているであろうテレビの音と官兵衛さんの声が微かに響く
その音を聞きながら、近頃の私の官兵衛さんへの態度のことを考えていた
普段暮らしている中でのことならいいが、その…恋人とするようなことになると駄目で、どうしても恥ずかしくて逃げてしまう
そんな自分がひどく嫌だった
何よりも逃げることで、官兵衛さんを傷つけているかもしれない
「このままじゃ、いけないよね……」
取り敢えず、次に何かあったとしても逃げずに向き合ってみようと決心したところで、お風呂からあがることにした
髪を乾かし、パジャマに着替えてから部屋に戻る
官兵衛さんはまだテレビを見ていたが、私に気付いたのか、こちらを見ながらポンポンと自分の足を叩く
ここに座れ、という合図だ
私は言う通りに官兵衛さんに近くへ行くと、ソファーの上に胡座をかいて座っている官兵衛さんの足の間に座った
やり始めたころはそれはもう恥ずかしさで暴れてはいたが、今でこそ慣れたもので数少ない私が平気なことだ
一緒にテレビを見たり、話したりするときには、よくこれをする
体格のいい官兵衛さんに対して、わりと小柄な体型の私が座り、官兵衛さんが私の前に腕を回すと、すっぽりと官兵衛さんにおおわれているような感じになる
私は、不思議とこれがたまらなく安心出来て好きだった
いつもなら私の頭の上に軽く官兵衛さんの顎がのせられるところだが、今日は少し様子がおかしい
スンスンと今日は私の髪を嗅いでいた
「ど、どうしたの?」
「……なんだ?優菜から甘い匂いがする」
「あぁ、シャンプー変えたからかも…って、官兵衛さん!?」
頭の上にあった官兵衛さんの顔がするすると私の首もとまで下がってくる
髪や鼻が擦れてくすぐったいが、それ以前に恥ずかしい!!
でも、ついさっきちょっとやそっとで逃げないと誓ったばかりではないか
私はなけなしの勇気を振り絞りグッと逃げないよう耐えた
「あ、あの、官兵衛さ…っ!」
な、舐められた!首もとを!
これはさすがにヤバい!と思った私は官兵衛さんから離れようとするが、ガッチリと官兵衛さんの腕に押さえられていて抜け出すことが出来ない
「か、官兵衛さ…っん、す、ストップ!」
「そんな匂いをしてるのが悪い」
「そんなこと…っ、いわれたって…それより官兵衛さん、甘いものそんなに…好きじゃないじゃない!」
「優菜のは別腹だ」
そんな無茶苦茶な!
じたばたと暴れるが、官兵衛さんの押さえる力がますます強くなるばかり
ついには服の中にまで手が入ってくるものだから、そこで私の何かがプツッと切れて、ボロボロと涙がこぼれていた
「…っうぅ」
「っな!?」
泣いている私に気付いて官兵衛さんの手が止まり、ようやく解放される
解放されてからも未だに泣き続ける私に、オロオロと「すまんかった!」と官兵衛さんが謝ってきた
「…グズッ……違うの…私がこれくらいのこと、我慢出来なくてごめんなさい…」
「あーいや、我慢はしなくていいんだぞ?」
「むしろ、するな」と官兵衛さんは言った
「小生だって、好いた女に無理強いはしたくないんだ。優菜が大丈夫になるまで、いくらでも待ってやるから無理だけはするんじゃないぞ?」
ガシガシと頭をかきながら官兵衛さんは続ける
「あーでも、恥ずかしがる優菜が可愛くて、小生も調子に乗りすぎた」
「すまん」と官兵衛さんがもう一度謝ってきた
「でも…私のこと、嫌いになったりしない?」と聞くと
「そのくらいで嫌いになるわけないだろう」と今度はギュッと優しく抱きしめてくれた
「あ、でもこのシャンプーはもう使うのは禁止だな」
「えー買ってきたばかりなのに?」
「じゃあ、小生が使おうか?」
「……今度は私が官兵衛さんを襲っちゃうかもよ?」
「そりゃあ、大歓迎だ!」
「……すみません、冗談です…」
あははっと二人で笑いあう
「……取り敢えず、お帰りのチューから頑張ってみます」
「おう、楽しみにしてるぞ!」
その後、お帰りのチューに挑んだ優菜が「やっぱり無理!恥ずかしい!」っと官兵衛に平手打ちを食らわし「なぜじゃーー!!」という官兵衛の叫びが、部屋中に響くのはまた別の話
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