07


放課後のことだ
私が帰ろうと教室を出たところに、パタパタと数人の女子がやって来た


「ねぇ…神田さん、ちょっといい?」

「…大丈夫だけど、どうしたの?」


うわぁーー!入学してから初めて他の子から話しかけてくれたよ!やっほぅ!
え?え?何の用事だろう?一緒に帰ろうとかだったら嬉しいなー


なんて、表面では平静を保ちながら、内心ではしゃぎまくりな私を余所に、彼女たちが問いかけてきたのは、私が期待していたものとは全く別のことだった


「神田さんって、後藤くんとよく話してるみたいだけど、大丈夫なの?」

「っへ?後藤くん?」

「ほら、神田さんの隣の…」


思わぬところで彼の名字を聞くことになったほぉ…後藤って名字だったのか
確かに一番よく話してるのは彼だと思うけど、それがどうかしたのだろうか?


「あぁ、後藤くんね!話はするけど、大丈夫ってどういうことだろう?」

「後藤くんって、話しかけると睨んできて怖いし…それに他の子が、何かヤバそうな人達と一緒にいるところ見たことがあるっていうから…」


あぁ、そういうのか…
あまりにも想像外の問いだったので、さっきまではしゃいでいた自分が恥ずかしい…


「神田さん、この間まで休んでたから知らないんじゃないかと思って…」

「………」


少し遠慮がちに彼女達は話を続ける
その話を私は黙って聞いていた
そして考えていた
そりゃ、確かに彼のことはまだ余り知らない
その噂のヤバそうな人のことも本当かは知らない
けれど…少なくともこの数日のやり取りで悪い人ではないことはわかっている
彼女達は周りから見た彼しか知らないから、彼を誤解しているわけで…うーん、どうしたら誤解がとけるものか…


「だから、関わらない方がいいんじゃないかな…」

「……いや、大丈夫だよ!」

「っえ!?」


私の返答に彼女達は驚いていた
聞いた話で彼のことを知ったなら、いいところも話で教えればいいんだ!
という結論が出たので、彼女達に私が知るかぎり彼のいいところを話すことにした


「皆が思っているほど後藤くんって怖い人じなゃないよ?この間は私が困ってた時に…あ、何で困ってたのかは言えないけど、助けてくれたし、その時のお礼に作ったお弁当なんて、それは酷いものだったけど、何だかんだ全部食べてくれたし、確かに口は悪いし酷いことも言ってくるけど、たまぁーに優しいことも言ってくれるしね!…あ!そうか!これがいわゆるツンデ…痛い!!」


呆気にとられている女子達に、マシンガントークで話し続ける私の頭へ、ゴスッとチョップが降ってきた
振り返って後ろを見ると、後藤くんがいて、ムスッとした顔で私を見下ろしていた
それを見た女子達は、そそくさと逃げるように私達のところから離れていってしまった
あぁもう、まだ話の途中だったのに!


「いてて…って、いつからいたの!?」

「おまえがぁオレ様のことをペラペラと話してるとこからだよぉ
なぁ〜にしてるんですかぁ?ねぇ?」


それはそれは不機嫌そうな表情で聞いてくる
これは、下手に何があったのか隠さない方がよさそうだと思った私は正直に事の説明をした
内容が内容なだけに、出来れば言いたくはなかったけど…


「ふぅ〜ん、そういうことですかぁ…オレ様の事なんだから別に好き勝手言わせて、ほっときゃよかったんですよぉ」

「友だちのこと悪く思われてるのに、ほっておけるわけがないでしょう!?」


思わず熱が入ってしまい、自分が思っていた以上に声が荒くなってしまった
だって、ほっとけばなんて寂しいことを言うだもの…


「っ!!…と、友だちぃ!?オレ様とおまえがぁ!?」

「うん…って、え?違うの!?」


友だちと思っていたのは私だけだったらしい
数分前の自分を殴り倒したいと、と今日以上に思ったことはない
それほどの羞恥心が私を襲う
今すぐに消えたい…恥ずかし過ぎて死にそう……よし、消えよう!


「あー…ていうかぁ、おまえ、オレ様と友だちになりたいんですかぁ?」

「なりたいに決まってるじゃない!」


ダッシュモーションに入ろうと後ろをむいた私に、後藤くんが聞いてきた
それを聞いた私は逃げるのをやめ、力強く答える
力込めすぎたかもしれない…後藤くんが若干引いてる気がする…


「さっきの木偶達の話、ちゃんと聞いてましたぁ?オレ様と友達になると、他の木偶に避けられるかもしれませんよぉ?それでもいいんですかぁ?」

「そんなの気にしないよ!さっきの子達だって、話の内容はアレだとしても、私を心配して言ってくれたんだろうし、根は悪い人ではないと思うよ?大丈夫大丈夫!」

「もしかしたら、オレ様が本当に噂のやばぁい人達とやらと繋がってるかもしれませんよぉ?それでもオレ様が怖くないんですかぁ?」

「前にも言ったけど全然。後藤くんがいい人ってことは知ってるし、それで十分でしょ!」


「本当ですかぁ?…」と後藤くんが続けるが、男の人に向かって悪いけど、むしろいつもと違って弱気なのが、なんか可愛いです!スミマセン!


「あーと、じゃあ、取り敢えずこんな私で良ければお友だちになってください!お願いします!!」


バッと後藤くんの前に右手を差し出す
が、後藤くんが私の手を凝視しながら固まったまま、なかなか反応してくれない
お願いだから、肯定か否定かしてくれないだろうか…
や、否定されるのはいやだけど
まず、このまま放置なのは、恥ずかしくて流石に拷問ものなんですが


「……あのー?後藤くん?」

「……」

「もしもーし?」

「……」

「……イヤならいいんだ、気にしないで、ごめっ!?」


返事をしてくれない後藤くんの行動を、否定と受けとることにした私が手を引っ込めようとした瞬間に、ガッと手を握られた
少し痛かったが、そんな痛みは目の前で私の手を握りながら真っ赤になっている後藤くんを見たら、すっぽりと飛んでいってしまった


「あ〜〜もう、わかりましたよぉ!!なってやりますよ友だちにぃ!!……他の木偶よりは話してて退屈しなさそうですしぃ…あ!お、お前が友だちになって欲しいっていうからなってやるんですからねぇ!」


「わかりましたかぁ!?」と最後に握っている手とは逆の手でビシッと私の方を指さしながら言った
嬉しいことに、やっとちゃんと友だちになれた


「えへへ、うん、わかったよ!これから、よろしくね!」

「〜っ、じゃあオレ様は帰りますからねぇ!」

「あ、せっかくだし一緒に帰らない?」

「お、オレ様、急いでますから!!」


残念ながら一緒に下校のお誘いは断られてしまった
ここまで話につきあってもらったのだし、急いでるのにこれ以上引き止めるのも悪いので、今日は素直に諦めることにした


「そっかー、残念だけどしかたない、また今度の機会にね!」

「…それじゃ、帰りますぅ………………また、明日」


ボソッとそう呟いたと思ったら、ダッシュで後藤くんは帰っていった
その背中に「うん、また明日ねー!!」と叫びながら見送った


ここまでくるのにものすごく色々あったけど、ついに友だち第一号ゲットだぜ!!
と、浮かれながら足どり軽く私も帰宅したのだった




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