罪ノ子
 全テノ始マリ / 龍二


「泣くなよ」
「ごめんね、龍、ばかちんこって言ってごめんね」
「それはもういい」
「いっしょに、寝ていい? ぅう……」
「いーよいーよ、入れ」
「ひっく、ぐす」

 龍二が体を寄せてスペースをあけてやると、鼻水と涙を流しながら八重がベッドに入ってきた。

「あーもう、きたねーな」
「んぶっ」

 タンクトップの裾を伸ばして、八重の顔を拭いてやる。……別に甘やかしていない。八重はちょっと拗ねただけだ。意地を張って、引くタイミングを逃しただけだ。
 それにこんなに泣いたら、許してやれないわけないだろう。

「なんであんなに拗ねたんだよ」

 金の柔らかい髪を撫でると、不安そうに顔をあげた八重と目が合う。まだ少し濡れた茶色い瞳は、龍二を映すと静かに揺れた。

「恥ずかしかっただけ……」
「何が」
「り、龍の匂いがするって」
「は?」

 銀色の月明かりでも、八重の頬が染まっていくのが分かった。おどおどと視線を逸らせ、長い睫が忙しなく上下に動く。

「エッチっぽいもん」
「……お前はあほか」

 龍二の左足を挟む太股に、ぎゅうっと力が入った。

「豹吾たち、怒ってるかな」
「怒ってねーよ」
「ほんと?」
「ああ、さっきまで一緒に八重探してた」
「明日、ごめんねって言うの、龍も一緒について来てくれる?」
「いーよ」

 龍二の返事に、八重はぐりぐりと額を胸のあたりに押し付けた。

「龍、好き」



 銀色の月が、空のてっぺんに昇る。優しくて静かな光が部屋を照らしている。八重の細い肩は、規則正しく上下に揺れている。


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