罪ノ子
 止マナイ雨 / 八重


 雨の音は、まだ止まない。

「……あ、龍?」

 気がつけば、八重はコンテナの影に倒れていた。
 空を覆う白っぽく煙る雲から、降り止まない雨が落ちてくる。真っ赤な鮮血をたっぷりと吸い込んだパイロットスーツが、重く体に纏わりついていた。

「……はっ、はッ、ハ、あ、誰か……」
『八重!! 今、どこにいる!?』
「あ…ひ、宏夢……? 助けて、わかんないよ」

 通信機から聞こえる宏夢の声に、八重はやっと今の情況を思い出した。
 非常警報が鳴ったのは今朝のことだ。
 機動班の緊急配備がされたが、八重はアグニスに搭乗したまま手足を折られ、片目を潰された。急いで緊急脱出したが、そこをデクロに襲われてしまい、必死に逃げたのだが今どこにいるのか分からない。
 いつの間にか気を失っていたようだが、いったいどのくらい一人でいるのだろう。

「……助けて、龍」

 龍に会いたい。
 こんなところで死にたくない。
 八重は壁に体を預けたまま、コンテナの影から外の通りを伺った。無防備にもこちらに背を向けたデクロが、丁度交差点を通って向こうへ抜けていく。

「宏夢……ぐッ、俺、」
『八重! 何でもいいから今いる場所の目印を言え!』
「……俺」



「見、ツケ、タ」

 ぐり

 八重の白い喉に、鋭い鉤爪が食い込んだ。



 地面に残る血の跡を消すように、雨は一層強まっていく。


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