うったりと、ぬるい湯の中につかったような夢を見た。
調度良くぬかるんで自分にぴったりのそこは、まるくなって耳を澄ますとどこからか鼓動が聞こえた。ざぁざぁと血の流れる音、ドクドクと脈を打つのは心臓の音。それが少しずつ自分と同調していき、ぴったりと重なってしまう。
ひどく心地がいい。
まどろみながら目を覚ますと、ベッドに達貴はいなかった。
カーテンの隙間から零れる光は真南から差している。ざあ、と木立が揺れる音がして、程なくして部屋へ入り込んだ爽やかな風が聖の髪を揺らした。
ゆっくりとベッドから体を起こして辺りを見渡しても部屋には誰もいない。
随分と寝てしまったようだ。壁の時計が十二時を指しているのを確認すると、ぼんやりとため息をついて壁に背を預けた。ドアの開く音に顔を上げると、入ってきたのは南だった。
「やっと起きたか」
「達貴は?」
「あいつなら訓練だ」
「やっぱり達貴も帝国隊になるのか?」
「……なるよ、あいつは」
コーヒーのマグを片手にした南は、デスクに座ると長い足を組んだ。
「達貴は将来の帝国隊に必要な存在だ」
「ふうん」
中庭で子供に囲まれながら絵本を読んであげているほうがずっとしっくりくるのに。
「それよりお前、昨日達貴に何かしたか」
「何かしたと言えばしたし、していないと言えばしていない」
「はあ、あんまり深入りするなよ」
「どうして?」
「……どうしてもだ」
達貴は、当たり前のように敷かれたレールから脱線することはなく、当たり前のように帝国隊になるのだろう。
それなら、一緒にそのレールを走ってみようか。
「お前はよく眠れたみたいだな」
「おかげさまで」
「食堂でも行って来い」
あいつらもそろそろ訓練が終わる時間だから、と言うと南はデスクの仕事に取り掛かり始めた。
聖が窓の外へ視線をやると、初めて救護室の真下にグラウンドがあることに気がつく。
特別候補生の訓練中で、すぐにあのふわりとした胡桃色の頭を見つけた。おまけに誰か知らない少年の足元にしゃがんで、膝に絆創膏を貼り付けている。
「俺やっぱり帝国隊になろうかな」
「おい、どういう風の吹き回しだ」
「興味が出た」
「興味? 何の?」
「達貴」
「……はあ、まあ何にせよ結果オーライか」
呆れた南の呟きを背にした聖は、ポケットに手をつっこむと救護室を後にした。
もうそこに煙草はなかったが、なんの問題も感じない。
聖の意識は真っ直ぐに達貴へ向かっていた。
2325.08.19〜 └ 手記 / 美里