熱い
吐息が、
身体が、
心が、
溶けて、ぐちゃぐちゃになって、溢れる。
襞になったシーツを握り締めた。じっとりとした汗が、弓形にしなった背中の窪みをつたい落ちる。
湿気を吸った敷きっぱなしの布団。玄関に溜められた、ゴミ袋。ビールの空き缶が数本、畳の上に転がっている。
隙間風だらけのプレハブ小屋は、一般居住区の独身男性の住まう寮だ。港が近いそこは、波の音が聞こえるほど海の気配がするけれど、それと同じくらい人の気配もした。もしかしたらあの金髪も帰っているかもしれない。
「んっ……」
ずっと奥に入り込んだ熱が、我が物顔で聖夜の肉襞を擦りあげる。
「……美里」
ああ、可哀想な人。愛しい人の面影を別人に重ねてしまう人。
潮の香りがする裸の背中に触れる。ぺたりと湿った肌がくっつくと、体を貫く楔が内側でせり上がった。
酒臭い息をまとう唇に、呼吸を奪われる。擦れる無精ひげが痛くて顔を傾けると、何か勘違いしたのか、腰を強く抱き寄せられた。さらに結合が深くなって、ぐち、と音が鳴る。
「ひっ……う」
痛いよ
「美里、美里……ッ、美里ぉ……」
次第に激しくなる律動に置いていかれないように、しがみつく。
一人きりにされないように。
僕は、女になる。
「あァ……ッ!」
耳元で、押し殺した雄の声がした。内側で溢れた欲望が、じんわりと肉体を蝕む。
その熱さのぶんだけ、僕は、
僕は……、
呼吸を飲み込むような息遣いに、はっと顔を上げた。自分を見つめる顔は、酷く苦しそうに歪んでいた。
『お前じゃないのだ』と否定している。
分かっていた。「代わり」でも良かったのだ。自分でも良く理解しているから。
だから、そんな顔しないで。
朝日が昇る。
冷たいシーツに肌が擦れて、腫れた瞼を開ける。
隣に、父はいなかった。