戦場は勝手知ったる一般居住区だ。しかし何度訓練したところで、見慣れた場所が様変わりしているのはあまり気持ちのいいものではない。
息を切らせながら巨大なコンテナを曲がると、聖が待機している倉庫の入り口にデクロが一匹うろついていた。
デクロとは爬虫類のような姿をした見上げるほど巨大な生物で、レギヲンの中でも性質が悪い。その腹に抱えた無数の卵がぎょろぎょろと動いているのが見えて、聖夜はぞっとした。
(やっぱり、気持ち悪い……!)
とにかく、デクロは一人では倒せない。聖夜は物陰に隠れると、銃身に弾込めをしながら通信機に触れた。こういう状況では、聖と連携をとる以外の方法はないのだ。
「聖、聞こえるか」
『ああ、聞こえるぜ』
「僕が、あいつの目玉に銃を命中させるから、その隙を狙って」
『俺が、あの気色悪い腹を掻っ捌けばいいんだろ』
「あ、ああ」
あまりに簡単に言ってのけるけれど、正直、自分なら遠慮したい役回りだ。
『それより、外すなよ』
「うん、大丈夫。じゃあ、いくよ」
引き金に指をかける。銃を構えると、まるで空間が自分の思い通りに伸縮する。あの小さい目玉がまるで目の前に、いや、直接銃口に突きつけているほど、近い。
ダァンッ!
寸分の狂いもなく、いつも通りに弾は命中した、はずだった。
「え……?」
デクロが、ゆらりとこちらを振り返る。ぎらりと光る大きな鉤爪に、聖夜は思わず立ちすくんだ。
間違いなく、弾は命中した。しかし、デクロはもう片方の目でじっとこちらを見つめていた。
その長い舌から、涎が滴る。
「い、……いや」
慌てた聖夜は、二発の弾を撃ち損じた。
失敗した。
落ち着いてもう片方の目も潰せばよかったのだ。
「……っ、来るな!」
こちらへ足を踏み出したデクロの足音が、地響きとなって伝わってくる。
しかし、そこで動きが止まった。腹で蠢く卵から、得体のしれない体液がブシッと派手に溢れたかと思うと、そこから真っ二つに体が裂かれたのだ。
倒れたデクロの巨体の向こうに、血濡れた聖が立っている。
聖夜はへなへなと座り込んだ。
「おい、何が大丈夫だ」
相変わらずのポーカーフェイスからは、汗が滴り落ちている。それを手の甲で拭うと、聖はにやりと笑った。
「腰抜けてるとこ悪いけど、俺はもう行くぜ」
「え?」
「今回も優勝するから、こんなとこで立ち止まってる場合じゃないんだ」
「何言って……ッあ、ちょっと」
めずらしく声を荒げた聖夜を無視するように、聖は走りだした。増援を頼んだのは、そっちじゃないか。
そもそも、今のデクロだって僕がいなかったら倒せなかったのに。
聖夜の頭にかっと血が昇る。
前回の特別実習で、聖夜は二番の成績を収めていた。心の内側で密かに、次は勝ちたいと闘志を燃やしていたのだ。
「待って!」
慌てて立ち上がると、聖夜は先を走る背中を追いかけた。