「う、うそだろ…?」

そう呟いて自分の体を見下ろす。
そこにはふたつのぽってりしたふくらみがあった。
びしょぬれになった服がぴったり張り付いているから間違いない。
確かに、俺の体に、いわゆるおっぱいという物体が、出来ていた。

「…誰か、嘘だと言ってくれ…」

そう呟いたあの日からはや一ヶ月。
俺はあの日から毎日のように死闘を繰り広げていた。
何故?そんなのは愚問だ。
思春期をほぼ男ばかりで過ごす忍たま達の元に、本来は男とはいえ水を被れば女になるなどという珍妙な呪いを受けた不運な人間がいたらどうなる?
…そう、俺はいけどんな先輩や悪戯好きな同級生を筆頭に、来る日も来る日も水を引っ掛けられて狙われているのだ!
ありえねえ!

しかし憤っていても事態は好転しない。
俺は今現在も俺の体を狙う不貞の輩と対面しているのだ。

「名字、一度試してみるのも悪くないと私は思う!」
「黙れ三郎!俺は男といちゃつく趣味はねえっ!」
「せっかくの体質を今後に生かそうと思わないのか?房中術とか房中術とか房中術とか!」
「房中術一択か!」

ツッコミを入れつつ三郎が投げてきた縄をかわし、足元を狙って手裏剣を投げつける。
もちろんかわされたが、それは計算済みだ。
俺だってまさか本気で三郎に当てようと思ってはいない。
狙いは一つ、三郎と距離を取る事のみ。
そんな俺の狙い通り、三郎は後ろに飛んで半間ほど距離を取った。
その隙を見逃してやる手はない。
素早く懐から煙玉を取り出し、火を灯してから三郎との間へそれを放り投げる。

「くっ!?」

三郎が怯んでいる間にさっさとその場を離れ、撤退を完了。
しばらくそのまま走り、三郎が追ってくる気配がない事を確認して立ち止まる。

「はあ…不運だ…」

何が悲しくて同級生の男に体を狙われなきゃならないんだ。
がっくりうなだれながらとぼとぼ歩いていると、突然わああああと情けなく叫ぶ声が響いてきた。
…こ、この声は…!

「どいてええええ!!!!」
「やっぱりー!?」

何故か屋根の上から勢いよく転がり落ちてくるその人は予想通り、忍術学園のへっぽこ事務員こと小松田秀作さんだ。
彼と俺は相性が非常に悪く、俺はよく小松田さんが起こすドジに巻き込まれてひどい目にあったりする。
よって、ここは下手に助けるよりも小松田さんが言う通りどいてかわすのが一番だろう。
そう判断してさっと横に動いた途端、足元の土ががらりと崩れる感覚と、感じる浮遊感。

「っわああああ!?」

どしゃあ!と盛大な音を立てて落っこちた俺は落とし穴に溜められていた水に濡れ、不本意にも女の体になっていた。

「だっ、誰だ畜生!こんな罠作りやがって!」
「名字くーん!大丈夫ー?」

怒り狂う俺を心配して覗き込む小松田さんを見上げる。
きっと小松田さんも俺をこの罠にはめるために利用されたに違いないが、そんな事には微塵も気付いていないようだ。
忍たまの罠にかかるなんてどうなのかと思うが、小松田さんだから仕方ない。
それより今はこの穴から抜け出して男に戻る方が重要だ。

「…小松田さん、ちょっと避けてて下さい」

そう声をかけてから苦無を取り出して登り始めるが、水が張られているせいなのか土が崩れやすく思うように苦無が刺さらない。
まったく、誰だよこんな厄介な罠を仕掛けた奴は…。
罠の製作者への文句をぶつくさ言いながらなんとか登りきろうとしたその時。

「上手くかかったみたいだな!」
「なっ、七松小平太先輩!」

にかりと笑みを浮かべた七松先輩がそこに現れ、地上まであと少しというところにいた俺の腕を掴んで持ち上げた。
や、やばいぞ、これは…。
七松先輩のバカ力から逃れる事なんてほぼ不可能に近い。
だからいつも捕まる前に逃げていたというのに!

「は、離して下さい!」
「嫌だ!ようやく捕まえたんだ、逃がすわけがないだろう!」
「…こ、小松田さん助けて下さい!」
「ええっ!?僕っ!?えーと、えーと、七松君!名字君を離してあげて!」
「断ります!それでは!」

小松田さんの言葉に当然応じる事などなく、七松先輩は俺を抱えていけいけどんどーん!と走り始める。
やばい!本気でやばい!

「誰かああああ!!!」
「ははは元気だな名字!楽しめそうだ!」
「全然楽しくないいいい!!!!」

このあと、なりふり構わず大声で助けを求めまくった俺は食満先輩と善法寺先輩の手によりなんとか救出され、無事貞操を守る事に成功したのだった。
…七松小平太は本気で呪われればいいと思う。

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