「名前!私の嫁になれ!」
「ぎゃあっ!ばかっ!服を着ろ!」
「あれは尻尾が窮屈だから嫌だ!」
「服を着ないなら犬になれ!」
「ええーでもそれじゃあ名前を抱きしめられないだろう?」
「真っ昼間から恋人でも何でもないフルチンの男に抱き締められる趣味はない!」

きっぱり言い切って、小平太の方を見ないまま手近にあったパーカーとジーパンを投げつければ仕方ないなあと呟いてごそごそする音が聞こえてくる。
それから着たぞ!と言う声が聞こえてきたと思うやいなや、私はいきなりがばりと抱きつかれた。
更に加減というものを知らないばか力でぎゅうぎゅうと抱きしめられ、ぐええと唸るが小平太はまったく気にしてなどくれない。
パタパタと尻尾を勢いよく揺らし、かなりご機嫌な様子で私を力いっぱい抱きしめ続ける。

「こ、へいた、くるしい…」

やっとの思いでそう言えば、ようやく小平太の力が弱まってほっと息をつく。
そんな私の事など一切構わない小平太は相変わらずご機嫌でふんふん私の首筋に鼻先を押し付けた。

「ちょっと、止めてよ」
「何で?」
「くすぐったいし、何よりあんたとこんな距離感で会話するような仲じゃないから」
「じゃあ私の嫁になれ」
「会話が噛み合わない…」

はあ、とため息をついてうなだれると小平太は元気だせ!とか言いながらからからと笑う。
アホみたいな笑顔にまたため息。
何で私がこいつのためにこんな悩まなきゃならないんだ。

「っていうかいい加減に離れてよ」
「何で?」
「あんたは小学校なの?何で何でうるさいよ、自分で考えな」
「えー」
「………」
「冗談だ!そんなに怒るな名前」
「はあ…ほら、離れて」
「んー嫌だ」

考えるような素振りを見せたあと、にかりと笑った小平太は私が怒り出す前にぺろりと私の首筋を舐めた。
ひ、ともれる声などやはりおかまいなしで小平太は今度はちゅうとそこに吸いつく。

「こへい、た…」

自分で思ったより弱々しい声が出て、じんわり涙が滲む。
やだ、こんな、情けない。

「名前、お前は本当にかわいいな」

肉食のけものみたいな目で小平太が私を見る。
私をけして逃がさないと、そう訴えるけものの目。

「…なあ、私の嫁になれ」

あまい声で誘うそれにもし乗ってしまったら私はどうなるんだろう。
ぼんやり考えて、だけど私の答えはひとつに決まっている。

「だが断る!」
「ええー!?」

ごん、と頭突きをかまして、一気に濃密な空気を散らすと小平太はむうっと顔をしかめた。
ばかめ、上手く行くと思っただろう。

「つれないなあ名前は」
「私は住所不定無職の謎の生命体に人生を預ける気にはなれません」
「住所固定有職ならいいのか?」
「検討はします」
「うーん、分かった、がんばる!」

頑張ってどうにかなるものなんだろうか。
疑問は感じたけれど、まあこれで一応は引き下がってくれたのでよしとしよう。
そんな事を考えていた私は数日後、本当に職を見つけてきた小平太に驚かされる事になるのだが、それはまた別の話。

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