「三郎、大変だ!委員長がいない!」
「…またか」

そんな会話を先輩方としてからはや四半刻。
私が学級委員長委員会の委員長である名字男主名前先輩を探して辿りついたのは生物委員会が飼育する動物たちがいる小屋だった。
生物委員会の委員長による圧力でこの辺りはいつも静かで人がいない。
もし騒がしくすれば動物にしか優しくない生物委員長が絶対零度の視線を寄越しながら攻撃を加えてくるからだ。
逆に言えば小屋の周辺で騒ぎさえしなければ物静かで害のない先輩と言えるので、それさえ気をつければ何ひとつ恐ろしくはない。

だが、しかし。
今私の頭の中で男主名前先輩がいつものごとくぐずぐずぐたぐだ泣き言を言い、生物委員長に粛清されている図がありありと浮かんでいた。
男主名前先輩は悪い人じゃないが、場の空気を掴む能力がいまいち欠場している。
だから生物委員長があの絶対零度の目で睨んでいようとも気付かず泣き言を続けるだろう。
…再起不能になってないだろうな、男主名前先輩。

少しばかり情けない、けれど何だかんだ言って見捨てられない男主名前先輩の無事を祈りながら早足で小屋へ近付いていく。
そうすれば案の定、小屋の中から男主名前先輩がぐずぐず落ち込んでいる声が耳に入ってきた。
そしてこれも予想通り、生物委員長が男主名前先輩を切り捨てる冷たい声も。
ああもう、いくら人が少ないからと言ってこんなところに来るから!
頭を抱えたくなりながら素早く駆け込み、なるたけ生物委員長の方を見ずに男主名前先輩の元へ駆け寄っていく。

「委員長!こちらにいらしたんですか!」
「三郎…僕は…僕は…」
「委員長がいないと委員会を始められません。頼りにしてるんだから早く来て下さらないと!」
「頼りに…?」
「そうですよ!お願いします!」
「…そ、そうだよな、僕がいないと始まらないよな!ははは、よし行くぞ三郎!」

委員長という肩書きと、頼りにしているという言葉の効果はてきめんだった。
男主名前先輩はすごく落ち込みやすいが、すごく立ち直りが早いので少し持ち上げてやればあっという間に調子に乗って元気が出る。
単純で扱いやすいと言ってしまえば失礼かもしれないが、男主名前先輩を表すのに相応しい表現だと思う。
まあ何にせよ、無事に先輩を委員会に出席させる事に成功できそうだ。
疲労感と生物委員長の冷たい視線を感じながら男主名前先輩が勢いよく小屋を出るのに続いていく。

この人、生物委員長の視線に気付いてないんだろうか。
もし気付いていてこれなら流石六年生と言わざるを得ないが、性格的に考えて気にしていないだけな気がする。
普段の男主名前先輩はあのいけいけどんどんなどと言っている七松小平太先輩のように細かい事は気にしないのだ。
果たして生物委員長の怒りが「細かい事」で片付けられるものかはさておき、男主名前先輩はすでに明るい笑顔になっている。

…ああもう面倒だし、これでいいか。
どうせ生物委員長に攻撃されて泣きを見るのは男主名前先輩だ。
それで委員会に出席できなくとも放っておこう。
そもそも二年生の私が男主名前先輩をお助け出来るとは思えないし。
何だか色々諦めて、必死に先輩を捜索してまで学級委員長委員会の活動をする必要性があるのかについて検討していると突然男主名前先輩が立ち止まり、先輩から聞いた事のない鋭い声で伏せろ!と命じられる。
その声に驚きとっさに反応できずにいるとぐいと引っ張られて無理やり地面に押しつけられた。

「男主名前先輩っ!?」

何事だ、と声をかけようと口を開いたのだが、それはすぐに引っ込んだ。
私の頭すれすれを隼のような速さのバレーボールが通過して、地面にめり込んだからだ。
それがもし当たっていたら、そう考えてさあっと血の気が引く。

「怪我はないか、三郎」
「は、はい…」
「まったく、こんな事をするのは三年ろ組の七松小平太だな。あいつにも困ったものだ」
「………」
「さあそんな事より委員会に行くぞ」

はい、となんとか返事をしたものの、私は呆然としていた。
だって、情けないとか、見捨てられないとか、そんな風に思っていた先輩がこんな風に私を助けてくれるなんて。

「…男主名前先輩って」
「うん?」
「頼りになりますね」

今度は心の底からそう言えば私の少しばかり情けない、けれど何だかんだ言って見捨てられない、だというのに本当はとても頼れる男主名前先輩は嬉しそうに笑った。

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