突然私の部屋にやってきて、何も言わずすっと私の前におそらく彼の手作りであろうボーロを差し出してくる中在家長次を、私は引きつった笑みで見上げた。
食べろ、という意味なのは間違いない。
だけど、果たしてこれは食べてもオッケーなものだっただろうか。
流石に自分で書いた話を全部把握してる訳じゃないからかなり不安だ。
食べて、もしそこでヤンデレ加速スイッチを押してたら。
そう考えてぞっとする。

他のヤンデレに比べて直接的な害を加えてくるタイプではないけど、長次のヤンデレエンドは甘やかすだけ甘やかして一人では何一つ決定できない駄目人間に仕立て上げるものだった筈だ。
もしこれがその一歩だったら。

ごくり、唾を飲み込んで迷っていると、長次はすっと跪いてボーロの乗った皿を机に置く。
それから突然ボーロを手掴みで一口取ったあと、私の口元に差し出してきた。

「…食え」

小さくそれだけ言って視線で口を開くように促してくるけど、いまだにどうすべきなのかまったく思い出せない私はただ黙り込む事しかできない。
そんな様子にしびれを切らしたのか、長次は開いた手で無理やり私の口を開いて、ボーロを放り込んだ。
抵抗なんて出来ないほどの素早さで行われたそれに呆然としていると、長次はうまいか、と静かに尋ねてくる。
慌てて頷けばむすりとした表情でそうか、と答えが返ってきた。

「もっと食え」

更に長次の手で押し込まれるボーロを咀嚼して飲み込んで、また押し込まれて。
それを幾度か繰り返せば、あっと言う間にボーロはなくなった。
ようやく終わったそれにほっとしたのも束の間、今度は水の入ったコップが口元に当てられる。
流れ込んでくるそれを飲み下して息をつけば、長次は満足そうな顔をしていた。

「…何か欲しいものはあるか」
「な、ない」
「…厠は大丈夫か」
「だ、大丈夫…」
「何かあれば、言え。私が何でもする」

どことなくうっとりした表情の長次に、うっすらとした寒気を感じたのはきっと気のせいではない。

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