私が所属する作法委員会の名字委員長は自分の美しさに絶対の自信を持っている。
くのたまより美しい、そう言って憚らない委員長は確かに女と見紛うほどの美貌だと思う。
しかしその反面、忍者としての能力ははっきり言って低い。
それは名字委員長本人も自覚しており、忍者になるより歌舞伎なんかを勉強した方が良かったと言っている事すらある。
だから委員会で使うためのフィギュアを用具委員会の倉庫に取りに行った際に留三郎から飛ばされた矢羽に反論が出来なかった。

「言っておくがお前の所の委員長もたいがいあれだからな!忍術の腕も女装を除けばうちの先輩の方が一応は上だぞ!」

一応は、とついてはいるがはっきり言われたその事実にひくりと顔が引きつる。
ざまあみろと言わんばかりの留三郎の表情も気に食わない。
しかし事実だからこそ何も言えないし、恐らく名字委員長は何ひとつ気にしないだろう。
むしろ代わりに美しさが飛び抜けてるから構わないと堂々と言う姿がありありと浮かぶ。
…六年の先輩方は変わり者が多いと言われているがこの人もその内の一人なのは間違いない。
もやもやとした感情を抱きながら名字委員長たちについて用具倉庫の中に入ると、相も変わらず呑気そうな用具委員長が結構数があるから大変だねとやはり呑気そうに言っているところだった。

「ああ、まったくだ。さあ君たち、手分けして運んでくれ!」
「台車に積んだ方が良さそうだねえ」
「お前に任せる」

名字委員長は自分で運ぶ気はまったくないらしい。
いつもの事だから今更気にはしないが、この人は自分で力仕事をした事があるのか疑問はある。
私が一年生だった頃から一度たりとも見た事がない。
六年間していないのだとしたら名字委員長の色の成績は相当なものだろう。
そんな栓もない事を考えている内にフィギュアを台車に積み終わり、呑気な用具委員長が台車の取っ手を持つ。
どうやら運んでくれるつもりらしい。
別に私が運べば済む話だとは思うが、私とて進んで力仕事をしたい訳ではないので黙っておく。

「よし、じゃあ行こうか」
「ああ、頼むぞ」
「任せてー」

任せて大丈夫なのか、そんな事を思った次の瞬間、私は自分の考えが正しかった事を知った。
用具委員長が持っていた台車の取っ手ががこんと外れ、バランスを失った用具委員長が積んであるフィギュアに突っ込み、更に横転して用具の棚にぶつかった挙げ句棚を壊して用具が勢い良く降り注いだのだ。

「…ま、任せられるかあああああ!!!!!」

留三郎の絶叫が倉庫の中に響く。
…やはり、我が作法委員会の委員長名字男主名前委員長の方が余程マシだ。
名字委員長は何もしないがその分、余計な仕事も増やさない。
ただひたすらに美しさの研究をしているだけ。
美しく見える仕草や、美しく見える表情、美しく見える角度、美しく見える立ち方座り方。
委員会の間、一人で延々とああでもないこうでもないと言いながらただひたすらに美しさの研究を…。
…どうしようもない。
いや、それはどうでもいいし、どうにもできない。
今はそれより散らばった用具をどうするかが問題だ。

「名字委員長、」
「まったく、何をやっているんだ君は。ほら、怪我はないか?」
「うん、大丈夫みたい。ありがとね」
「食満留三郎、君は台車をどかしてくれ。立花仙蔵、君は壊れやすそうな物を集めるんだ。それから…」

私と留三郎に指示を出し、そのあと用具委員長をじっと見つめた名字委員長はふむ、とひとつ頷き、君は用具委員長としてそこで全体の様子を監督してくれ、と微笑んだ。
それはつまり、厄介払いというやつだが用具委員長は気にした様子もなくはあいと返事をしてから指示された場所へ移動する。
用具委員長の呑気さに呆れながら、私は名字委員長の意外な一面に驚いていた。
普段、作法委員会の活動ではこんな風にまとめ役になる事はないため、失礼ながら名字委員長の上級生らしい姿を見るのは初めてだったのだ。
やろうと思えば出来るんじゃないか、などと本当に失礼な感想を抱くのは仕方のない事だろう。

「立花仙蔵、私は彼が余計な仕事を増やさないように見張っている。片付けは食満留三郎と二人で頑張るんだ」
「………」
「返事は?」
「…はい」

しかし、名字委員長はやはり名字委員長だった。
用具委員長の見張りとはつまり、片付けなどの実働は何もする気がないという事だ。
呆れつつもやはり、と思う。
何故なら我が作法委員会の名字委員長が肉体労働などという、美しくない行為をする筈がある訳がないのだから。

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