「七松、お前どう思う」
「ん?何を?」
「体育委員会の予算についてだ」

体育委員会委員長、名字男主名前先輩が渋い顔をしてそう言って、私の答えを聞く前に少なすぎる!と声を上げる。
私もまあ、人の話を聞かないとよく言われるけど、名字先輩はそれ以上だ。
というより人の話を聞く気がない。
困ったものだなあ。
この間、一年生の平滝夜叉丸に言ったらあなたがそれを言いますかと呆れられた事を思い出し、むうと首を捻る。
どう考えても名字先輩には負けるだろう。
長次だって名字先輩は災害みたいなものだと言っていたし。

うんうん、と一人で納得していると名字先輩も何か一人で結論付けたらしく、よしっと言って立ち上がった。
それから行くぞと私に声をかけ、すたすた歩き始める。
私の方を見もせずに行ってしまうから、慌てて立ち上がって後を追いかけるしかない。

「名字先輩、どこに行くんだ?」
「会計委員長の所に決まってるだろう」
「直談判か!」
「いや、ちょっと聞きたい事がある」

にやり、人の悪い笑みを浮かべて名字先輩が言うが、予算についての文句を言うんじゃないなら何の用なんだろうか。
まあ文句を言った所で会計の委員長が予算をくれるとは思えない。
というか今年度の予算はもう組んであるから変えようがない筈だ。
うーん、と考えるがまあ名字先輩のする事だからきっと悪い方に転ぶ事はないんだろう。
あとで文次郎に文句を言われるかもしれないけど、聞き流せばいい。

だいたい、名字先輩に文句があるなら直接言えばいいのに何にも言わないんだものなあ、あいつ。
私に言ったってしょうがないのに。
そうは思うけど、名字先輩はどうも他の生徒に怖がられてるらしいから仕方ないかもしれない。
名字先輩は私のバレーボールにも付き合ってくれるし、すごくいい先輩なのにな。
みんな名字先輩ともっと話せばきっと分かるのに。
今度文次郎たちも誘って一緒にバレーボールをやってみようか。
そんな思い付きをしている内に気付けば会計委員の使う部屋まで来ていた。
名字先輩が邪魔するぞ、なんて声をかけて返事が来る前に障子をすぱんと開くと、いつも通りに笑みを浮かべる会計委員長と顔を強ばらせた文次郎たち会計委員が見える。
そんな事はお構いなしに、名字先輩はよう、と会計委員長の前にあぐらをかいて座ったので私もそれに倣っておく。

「体育委員会委員長として会計委員長に聞きたい事がある」
「何の用ですか。予算なら都合しませんよ」
「んなこたあ分かってるよ。聞きたいのは別の事だ」
「別の事?何でしょう」
「バレーボールの管理についてだ」
「バレーボールの管理?」

会計委員長が不思議そうに繰り返すのを見ながら、そう言えば昨日の休み時間にまたバレーボールが破裂したんだっけ、と思い出した。
あれはやわでいけない。
少し強くアタックしただけですぐに破裂するんだからなあ。
あのあと文次郎と留三郎が怒ってたっけ。
思い返していたら名字先輩がぼすんと私の頭に手を置いて、何だろうと見上げたらまた人の悪い笑みを浮かべていた。
悪人面だと仙蔵が言っているけど、確かに善人には見えない。

「うちの七松が昨日バレーボールを破裂させたんだが知ってるか?」
「ええ、もちろん知ってます。文次郎くんが報告してくれましたからね。それが何か?」
「思うんだが、バレーボールは学校の備品だよな?」
「…用具委員が泣きますよ」

会計委員長の言葉に、名字先輩はますます笑みを深くして喉で笑う。
隅っこで文次郎が小さく体を揺らすのが見えた。
…一緒にバレーボールは無理そうだ。

「予算は来年度まで組み直す予定がないんだったな?」
「ろ組同士、用具委員長とは仲がいいんでしょう」
「お前とも仲良しのつもりだぜ?」
「…ま、いいでしょう。用具には多めに予算を回してますからね。バレーボールの管理は用具委員会に任せます」
「今日の夕飯は奢る」
「結構です」

賄賂ぐらい受け取れよな、と笑って名字先輩が立ち上がる。
どうやら話は終わりらしい。
さっさと行ってしまう名字先輩の後を追って部屋を出た直後、文次郎がいいんですか!?とか言ってる声が聞こえたけど気にしない事にした。

「名字先輩!」
「何だ」
「バレーしよう!」
「そうだな、少なくとも今年度中は思いっきりアタックしていいぞ」
「おー!」

私の尊敬する先輩は、やっぱり人が悪い!

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