唐突にばしゃんと盛大な音を立てて浴槽から十歳ぐらいの子どもが飛び出してきたら普通、どんな反応をするものなんだろう。
今まさしく風呂に入ろうとしていたところででそんな異常事態に直面した私は何もリアクションをとれず、ただ固まる事しか出来なかった。
誰か正しいリアクションのレクチャーお願いします。

と、まあそんな風にリアクションを取れないままでいる私の事は置いといて。
唐突に現れた不機嫌そうな表情の子どもは状況が掴めないらしく首を傾げた。
それからきょとりとした表情のままこちらを見て目つきをかっと鋭くし、これまた不機嫌そうな声をだす。

「あ?…ああっ!?」

が、次の瞬間には驚いたような声を上げ、べちりと音がたつほど勢いよく風呂の壁にぎりぎりまで後ずさった。
だけど少年はそんな事には気付いていないのかまったく構わず口をぱくぱくさせる。
それから私を指差して、はっとしたように勢いよく顔を背けた。

「ええっと、君はどこからきたのかな?」
「ちっ、近寄るなっ!」

少年の意味の分からない行動は無視してとりあえず聞いてみれば、少年はなんとも失礼な言葉を向けてくれた。
生意気な小僧め、とちょっとばかり苛ついたものの、子ども相手に怒ってもしょうがないのでなんとか怒りを心にしまう。
しかしこの子、私が風呂に入ってきた時にはいなかった…よね?
いったいどこから風呂に侵入してきたんだ?
考えている内に少年がいきなり服を脱ぎだしてなんだなんだと思っていたら、その服をそのまま私の方へぶん投げてきた。

「ぐはっ!?な、何!?」
「隠せ!」
「は?」
「隠せ!女ならまず隠せ!」

言われてようやくああ、と納得。
そうか、私が裸だったからあんなに動揺してたのか。
最近の子どもはませてるなあ。
そんな事を考えながらとりあえず少年の服はその場に残して一度浴室の外に出る。
紳士的な少年には悪いけど、あんなべしょべしょの服で体を隠そうとは思えない。
とりあえず隠れてればいいかな、と判断してタオルを巻いて浴室に戻れば、不機嫌そうな顔をした少年は目が合った瞬間に再び顔を真っ赤に染めた。

「ばっ、ばっ、バカタレェェェ!!」
「うえっ!?な、何!?」
「服を着る為に出たんじゃないのか!?何でそんな、そんなっ、破廉恥だ貴様ァァァッ!」

えええ、そんな古風な!
ていうか破廉恥とか初めて言われたわ…なんなのこの子…。
眉を潜めて迷惑そうな表情を作ると少年はますます怒りを強めたのか、もう一度バカタレ!と怒鳴り声を上げる。
人の家に勝手に侵入しといて家主をバカタレ呼ばわりするとか…マジでなんなの親の顔が見てみたいわ。

「子どもに裸見られたぐらいでぎゃあぎゃあ騒いだりしないから」
「…はっ!そうだ、そうだった…何故俺はこんな子どもの姿になってるんだ!?」
「はあ?」
「変な女のせいで忘れていたが、どう考えてもおかしい!そもそもここはどこなんだ!?」

なんだか焦った様子の少年は訳の分からない事を言い出した挙げ句にお前が連れてきたのか!?なんて更に訳の分からない事を言い出して、イライラがピークに達していた私はああ?と思わず低い声で威嚇してしまう。
でも人様の家で騒ぎ立てる少年の方が間違いなく悪いと思うから決して大人気ないなんて事はない。
むしろ警察に連れていかないだけマシだと思ってもらいたいぐらいだ。

「別に君に用はないし、早く出てってほしいぐらいなんだけど!」
「何!?人を勝手に連れてきた挙げ句にこんな状態にしておいてなんという言い種だ!」
「連れてきてないし、君の言うこんな状態ってのも知らんし!」
「てめえ!女だからと言ってようっ!?」

容赦しない、と言いたかっただろう少年の言葉は再び起きた水柱によって遮られた。
そしてその水柱が消えたあと、そこにいたのはやはり十歳ぐらいの目つきが悪い子ども。
…いやいや、え?
どう考えてもおかしいよね?

「あ?」

先に現れた少年と同じような声を上げた少年の名を、食満留三郎。
そして先に現れた少年の名を、潮江文次郎。
これから彼ら二人と、更にその仲間たちとの不本意な同居が始まる事を、ゆらゆらと揺らぐお湯をたたえた我が家の浴槽だけが知っていた。

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