「例の件、謹んでお受け致します」
「色良い返事を頂けた事、心より感謝致す。…早速だがそちらの持っている情報を明かして貰おうか」
「まずはそちらから。あなたを完全に信頼した訳ではありませんので」

薄暗い部屋の中、陽の出ている時間には絶対に見せない朗らかな表情と声音を出す男は名を男主名前という。
男主名前はこのタソガレドキ城の傭兵の一人で、私より少し前に雇われたらしい。
はっきり言ってそんな下っ端に興味などなく、三日ほど前までは認識すらしてなかったのだが…集まらない情報に焦っていたのか珍しくしくじった。
私がタソガレドキへ調査のために潜入している事を感づかれてしまったのだ。

それでも相手がタソガレドキの人間でなく、男主名前だった事は私にとって暁光だったといえる。
男主名前はフリーの忍者で私とは別の依頼人から依頼を受けてタソガレドキを調査していたのだ。
その上、男主名前は傭兵という立場で潜入している。
女中では潜入できない場所での情報を集める事が出来る男主名前と協力すれば上手く進まない調査もはかどるに違いない。
つまり、利害が一致した。

もちろん男主名前を信頼している訳ではない。
だがここで私を裏切ったところで男主名前の利はないという考察に基づいての判断だ。
それに私より先に潜入したにも関わらず未だに欲しい情報が掴めていない男主名前は焦っているようだった。
見たところ優秀な忍である男主名前は長期戦になるとは思っていなかったのだろう。
見通しが甘い…と言いたいところだが、私も想定より調べが進まず、タソガレドキの警備の厚さに辟易しているので人の事は言えない。
まったく嫌になるな。

頭の痛い思いをしながら男主名前の調べた情報を聞き、なるほど、と頷いてみせる。
それから私の持つ情報を明かすが互いにめぼしい情報はなく、自然と顔は厳しいものになっていった。
男主名前も傭兵として潜入している時には見せない柔らかな表情で苦笑いをこぼした。

「いつまでもぐずぐずしている訳にはいかないんだがな…」
「同感ですが、焦りは禁物というもの」
「心得ている。しかし私も君も潜入してからそれなりの期間が経過しているだろう。これ以上時間をかけては信頼問題に関わる」
「…それは、確かに」

笑顔で厳しい事を言ってくれる。
思わずため息をつけば男主名前も同じようにため息をついた。
その表情には疲労の色が浮かんでいて、忍として会う時の方が表情豊かだなんて妙な男だと思う。
事が上手く運ぶなら男主名前が珍妙だろうとどうだっていい事だが。

「まあ心配はいりません。私、受けた依頼を失敗した事はありませんので」
「…素晴らしい自信だな。それが慢心ではない事を祈ろう」
「ふふふ、私もあなたが足手まといにならない事を祈っています」

はあ?慢心だと?どこの誰にそんな生意気な口をきいているんだ?

という気持ちは心に押し込めて、取って付けたような笑みを浮かべてやれば鼻で笑われた。
あームカつく、この男。
すっごい嫌いなタイプ。
苛つきを面に出さないように気を付けつけていると、男主名前はでは、と小さく告げて部屋の外に出て行った。

「…ふう」

しばらく部屋の外の様子を伺ってまたため息。
あんなに馬の合わない男と手を組んでこれから先やっていけるのだろうか。
一抹の不安を感じながらそれでも、と笑みをこぼす。
そう、それでもあの男は私の女装に気付いていないのだから忍としての腕前は私の方が上だろう。

「ふん、ざまあみろ減らず口男め」

別にこれは男主名前がやたら男前だからねたんでいる訳じゃない。
それだけははっきり言っておく。

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