「例の件、謹んでお受け致します」
「色良い返事を頂けた事、心より感謝致す。…早速だがそちらの持っている情報を明かして貰おうか」
「まずはそちらから。あなたを完全に信頼した訳ではありませんので」

薄暗い部屋の中、陽の出ている時間には絶対に見せないひやりとした表情と声音を出す女人は名を利子という。
利子はこのタソガレドキ城の女中の一人で、最近やってきたばかりの女だ。

だがつい三日ほど前、私は利子がタソガレドキへ調査のために潜入したくのいちである事に感づいた。
気付いたのは本当に偶然だったが、自分の仕事…つまり、タソガレドキへの潜入調査に手詰まりを感じていた私にとってこれは暁光と言っていい出来事だったのだ。
そう、私も利子もタソガレドキを調べるために潜入している忍びの者。
互いにフリーの忍として活動し、依頼を受けてタソガレドキへやってきたのだ。
私は傭兵の一人として、利子は女中として…それぞれ調査をしていく中でそれぞれの立場では集めにくい情報を手にしていた私たちは今回、利害が一致したため手を組む事にした。

まあ先の利子の言葉からも分かる通り、けして良好な関係とは言い難いが…こんなものだろう。
私は情報が得られれば利子にどう思われていようとどうだっていい。
それよりも早いところ必要な情報を集めて傭兵生活から解放されたいのだ。
…男装して長期間生活するのは想定したよりもしんどかった。
短期間なら今までにも何度かあり、今回もそのつもりでいたのだけど…タソガレドキは考えていたより警備が厳しい。
流石、優秀な忍者隊を有しているだけはある。

頭の痛い思いをしながらこちらの持っている情報を利子へ提供すれば、利子は平素は見せない鋭い視線でなるほど、と頷いた。
それから自分の持つ情報を明かし始める。
女中だからこそ分かる情報もいくつかあったが、やはりわざわざ私と手を組む事にしただけあってめぼしい情報はないようだった。
利子は優秀なくのいちのようだが、タソガレドキの警備はそれを凌駕しているらしい。
まったく、嫌になる。

「いつまでもぐずぐずしている訳にはいかないんだがな…」
「同感ですが、焦りは禁物というもの」
「心得ている。しかし私も君も潜入してからそれなりの期間が経過しているだろう。これ以上時間をかけては信頼問題に関わる」
「…それは、確かに」

利子は同意しながら少しキツめの顔立ちをより厳しいものに変えため息をつく。
そのさまを見ながら私も私でため息をひとつ。
まったく、とっとと仕事を終えてゆっくり風呂につかりたい。

「まあ心配はいりません。私、受けた依頼を失敗した事はありませんので」
「…素晴らしい自信だな。それが慢心ではない事を祈ろう」
「ふふふ、私もあなたが足手まといにならない事を祈っています」

んだと、コラてめえブチのめされたいかああ?
という気持ちは心に押し込めて、鼻で笑うに押し留める。
あームカつく、この女。
すっごい嫌いなタイプ。
苛つきを面に出さないように気を付けつつ、これ以上同じ空間にいたくなくてでは、と小さく告げて部屋の外に出た。

「…ふう」

しばらく歩いたところでまたため息。
あんなに馬の合わない女と手を組んでこれから先やっていけるのだろうか。
一抹の不安を感じながらそれでも、と笑みをこぼす。
そう、それでもあの女は私の男装に気付いていないのだから忍としての腕前は私の方が上だろう。

「ふん、ざまあみろ自信過剰女め」

別にこれは利子がやたら美人だからねたんでいる訳じゃない。
それだけははっきり言っておく。

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