中在家長次さんという、超絶威圧感に満ちたひとつ年上の男の人がバイト先にいる。
彼は非常に無口で時々何かを喋ってもぎりぎり聞き取れるぐらいの声量だ。
はっきり言って取っ付きにくい事この上ないが、慣れてしまえば意外と優しいところがあって初めに感じていた恐怖心はいつの間にか消えてしまった。

そんな中在家さんと私は今何故か二人きりで観覧車に乗っている。
…なんで?

「…寒くはないか?」
「えっ!?あ、はい!大丈夫です!」

慌てて頷いてみせれば中在家さんも「そうか」と頷いて黙り込んだ。
き、気まずい!
何を話せばいいのかぜんっぜん分からない。
中在家さんと仕事の時以外で二人きりになるなんてないからなあ…。
どうしたらいいんだろう。

中在家さんにバレないようにこっそりため息をつきながらそもそもの原因を思い返してみる。
事の発端は…うん、そうだ。
数時間前、みんな集まれ!独り者全員集合!〜クリスマスにぼっちで過ごしたくない!〜というバイト仲間での飲み会中に同い年で仲の良い勘右衛門が「海にいきたーい!」とか騒ぎ出した事だった。
その時は私も「いいね海!」なんて言ってはしゃいでたんだけど…。
海沿いにあるショッピングモールで観覧車を見た途端、勘右衛門は「観覧車乗りたーい!」と言い出したのだ。
まあその時は私も「いいね観覧車!」とか言ってノリノリだったんだけど…。

ま、まあとにかく、じゃあ観覧車に乗ろう!って時になって二人ずつで乗ろうと勘右衛門が言い出した。
海までやってきたメンバーは勘右衛門、中在家さん、雷蔵くん、勘右衛門の事を好きな女子、中在家さんを怖いと言ってる女子、私である。
どちらかというと空気を読むタイプの方な私には中在家さんと乗るという選択肢しか残っていなかった。
三人ずつで乗れば良かったじゃん勘右衛門のばか!

「…も、もうすぐ頂上ですね」
「ああ」

勘右衛門を心の中で罵倒しながら中在家さんに何とか話題を振ってみる。
だけど中在家さんは相変わらずの無口で短い返事がくるだけだ。
もういっそのこと黙って座ってる方がいいのかもしれない。
そんな風に反省しながら中在家さんを伺い見る。
中在家さんは目を細めて外の風景を眺めていたけど、私の視線に気付いたのか急に私の方へ目を向けた。

「…名字」
「は、はい」

中在家さんの方から話しかけられた事に緊張しながら返事をすると、中在家さんは少しだけ眉を下げて私から目をそらす。

「…私が怖いか?」
「はい?」

唐突な質問に首を傾げると、中在家さんはいつものむすりとした顔でまた外へ顔を向けた。

「こんなところで私と二人きりなんて嫌だろう」
「えっ!?い、いえ、そんな事ありません」
「無理はするな」
「無理なんて…」

中在家さんがどうして急にそんな風に言い出したのか分からないけど、中在家さんを怖く思ってないのは本当だ。
なのになんで怖いだなんて…

「………」
「………」

沈黙が痛い。
誤解を解かなきゃならないのに、なんて言っていいのか分からなくて言葉が出ない。
ああもう、助けて勘右衛門!

なんて、思ったタイミングでピリリリリと中在家さんのケータイが鳴ってびくりと体が揺れる。
一々ビクついてしまうのを申し訳なく思いながらケータイをじっと見ている中在家さんにどうぞと促した。

「…もしもし」

私に「すまない」なんて謝ってから電話に出る中在家さんの低い声を聞きながら、電話なら会話しやすいのかなとぼんやり考える。
中在家さんの声って小さすぎて聞き取りにくいけど良い声だよなあ。
優しくって頼りがいがある、すごく安心する声。

「…好きだなあ」
「っ!?」

ごとり、とケータイが観覧車の床に落ちる音がしてぼんやり外を見ていた視線を中在家さんの方へ戻す。
中在家さんは驚いた顔で私を見ていて、ケータイからは何故か勘右衛門の声が響いていた。

「…尾浜、が」
「勘右衛門?」
「この、観覧車の頂上で告白して、」
「告白?」
「付き合い始めた恋人同士は幸せになれる、と」
「…はあ、」

つまり、どういう事?
察しの悪い私が中在家さんから告白されてそれから数年後には自分も中在家さんになるなんて、その時は勘右衛門以外誰も予想していなかったのだった。

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