「ハッピークリスマース!!」

いえーい!と叫びつつ侵入したのは友人の潮江文次郎のお宅である。
文次郎宅はやっすいアパートの一室で、極端に物が少ないのが特徴だ。
タンスぐらい買えと常日頃から言っているけど、頑として文次郎が買わないので洗濯物は部屋の隅に綺麗に詰まれている。
文次郎曰く、衣類が少ないからもったいないらしい。
いやだとしてもタンスぐらいは買えよとツッコミをいれるのだけど、毎回面倒くさそうな顔をされて終わる。
文次郎のパンツの柄なんか知りたくないから視界に入らない所にやって欲しいんだけどなあ。

まあそんな文次郎のパンツやタンスの話はどうだっていい。
今はクリスマスのお話だ。
世間では恋人達が浮かれ、家族思いのパパさん達が仕事をいそいそと終わらせて帰る日。
そんなクリスマスにケーキを売るバイトをしてきた私は余り物のクリスマスケーキを手に文次郎の家にやってきたという訳だ。
あと同じく余り物のシャンパンと、あらかじめ買っておいたせいで冷え切ったチキンも持参した。

「…おい、何だその浮かれた格好は」

ドサドサと机に手土産の数々を置いている私に、眉間にしわを寄せた文次郎が不機嫌そうに言う。
浮かれた格好というのはこのサンタコス(notミニスカ)の事だろうか。
これはクリスマスケーキを売る戦士たちの戦闘服なのだから仕方ない。
これを着るだけで売り上げが変わるのだから着ない手はないだろう。

それにしても、一人じゃ寂しかろうとわざわざ来てあげた私に何という態度だろうか。
生意気な奴め、文次郎のくせに。

「生意気な文次郎は成敗するぞ!」
「何だ、まさか酔ってるのか?」
「酔ってませーん」

缶チューハイ一本で酔ってたまりますかってえの。
にやにやしながら文次郎の頭をわしゃわしゃと撫で、もう一度ハッピークリスマス!と声を上げれば文次郎は深いため息をつく。
そんなため息ついてたら幸せが全速力で走って逃げるぞ!

「文次郎いえーい!」
「バカタレ、近所迷惑だから静かにせんか」
「クリスマスだから誰も文句言わないよー!」
「世の中がお前みたいに浮かれきったバカばかりだと思うな」

むすっとした表情のまま放たれた文次郎の暴言は華麗にスルーして、私はケーキの箱を開ける事に決める。
このケーキは世のみんなの幸せの残りカスみたいな物だからきっと恋人のいない私にも少しぐらいは御利益があるに違いない。
ていうかほんと今日一日がんばったんだからご褒美下さい。

「という訳だから潮江文次郎くん」
「何だよ?」
「このケーキあげるから私とお付き合いして下さい」

ワンホールのケーキを4分の1にカットして文次郎に差し出せば、文次郎はぽかんと口を開けて間抜け面をした。
それから眉間のしわをますます深くして頭を抱える。

「…名前」
「うん?」
「そういうのは素面で言わんか、バカタレ」

不機嫌そうに言った文次郎の耳がうっすら赤くなってたから、明日また改めてアタックしてみようと思う。

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