「なあ、いいだろ?」
「ええと、その、」
「俺たちもう付き合い始めて半年だぞ?」
「う、そう、ですけど…」

日本人でクリスマスの夜といえば恋人たちにとっては「聖なる夜」でなく「性なる夜」になる。
本来のクリスマスどこにポイ捨てしてきたの?なんて疑問に思うしかないクリスマス。
恋人のいない人間にとってはぎりぎりと歯を食いしばって寂しく悔しい思いをするクリスマス。
海外からしたらきっとなんだこれと思われるに違いないクリスマス。

…つまりあれだ、何が言いたいのかっていうと、だ。

「く、クリスマスだからって別にそういう事する必要ないと思うんですよね!」
「…しない理由もないと思うんだが」
「何かほら、世間に流されてるみたいで嫌じゃないですか!」
「流されるのもたまにはいいんじゃないか?」
「食満先輩ともあろう人がそんな事でいいんですか!?そんな流されやすい食満先輩見たくないです!」
「お前どれだけ嫌なんだよ…」

くっ、いつもならこう言えば軽く乗せられてくれるのに今日はやけに冷静に突っ込んできやがる!
そっちこそどれだけ性夜したいんだよ!

ちっと舌打ちをしたいのを抑えながら次の手を考えてみるけど、なかなか良い案が浮かばない。
どうにか上手く穏便にお流れに出来ないだろうか。
何か…何か…はっ、そうだ!

「食満先輩、実は私、今ちょうど女の子の日ってやつで…」
「…女の子の日?」
「そうそう、クリスマスをブラッディークリスマスにしたくないので止めておきましょう!」
「お前3日前にようやく解放されたって喜んでたよな?」
「そ、そうだった…!」

アホ!私のアホ!
もうやだ素直過ぎる自分が憎い!
がくーっとうなだれてorzのポーズを取れば食満先輩ははあっ、と大きなため息をついた。

「…う、お、怒って…ますよね?」
「怒ってるっつうか…何でだよとは思ってる」
「で、ですよね…」
「…俺の事が嫌な訳じゃないんだよな?」
「それは間違いなくないです!私、食満先輩の大好きですから!」
「お、おお、そうなのか」

はっきり食満先輩に宣言すれば食満先輩は少し照れたような表情で頬をかく。
ううん、イケメンだ…。
こんなイケメンが私と付き合ってくれてるだけでもありがたいのにお預け食らわせるなんて何様だよと世のお姉さま方から怒られそうだ。

「でもまあ、愛さえあればエロなんかいらないよね!」
「いやいる!いるに決まってる!」
「えっ先輩私の事愛してないんですか?」
「愛してるから心だけじゃなく体も欲しいんだ!」
「くっ、イケメンフェイスでそんな事言うなんて卑怯ですよ!」
「ふっ、なんのためのイケメンだと思ってる」

ま、まさか…エロのためのイケメンだとでも言うのか…!?
ドヤッとしてくる食満先輩にまるでガラスの仮面のマヤのように驚いてみせれば、対して食満先輩はベルばらのオスカルのように紳士的に手を差し出してきた。
その手をつい流れで取ればぐいっと抱き寄せられ、濃厚なキスをかまされる。
これは、ヤバい…完全に性夜の流れに持ってかれそうだ。

「ちょ、ちょちょちょ、ストップ!ストップです先輩!」
「っ、なんでだよ!今そういう雰囲気だっただろ!?」
「いや、そうなんですけど!でもダメです!」
「…理由は」
「えっ」
「理由を説明しろ」

ムスッとした表情もイケメンな食満先輩に言われ、私は言葉に詰まってしまう。
理由がない訳じゃないんだけど言いたくない…でもこれは言わない訳にはいかない、よね。

「…ど、どうしても言わなきゃダメですか?」
「理由も分からないまま寸止めの俺の気持ちも分かってくれ」
「う…あの、引かないで下さないよ?」
「引くような理由なのか?」
「…たぶん」

食満先輩は正直言って結構遊んでる方だし、引くと思うんだよね…。
もしこれが原因で別れる事になったらどうしよう。
そんな事を頭の中でぐるぐる考えながらじっと待ってくれている食満先輩を見る。

よ、よし、食満先輩を信じよう…!

「じ、実はですね、私、あの…」
「おう」
「しょ、」
「しょ?」
「処女、なんですよねー、これが…」

うおお、言ってしまった!
ああそうさ、実は食満先輩が初めての彼氏で今までセックスどころかキスだってした事なかったさ!
こうして恋人がいるクリスマスを過ごすのも初めてで浮かれまくってケーキまで手作りしたのは私ですよ!

心の中でそんなマシンガントークをかましながらもう食満先輩の顔を見れなくてただひたすら俯いて時が過ぎるのを待つ。
だけどどれだけ待っても食満先輩の反応がやってこない。
まさか引き過ぎて何も言えないとか…?
びくびくしながら覚悟を決め、そっと顔を上げる。

「…え?」

ゆっくり顔を上げたその先には、床に突っ伏して声にならない声を上げつつ拳を天に向かって伸ばす食満先輩がいた。

「…は?」
「…名前」
「は、はい!」
「お、お前が、しょ、処女って、マジか」
「…う、はい」

確認する食満先輩の言葉に顔を赤くしながらなんとか頷けば食満先輩は「うおおおおお!」と雄叫びを上げて、それから一気に体を起こしたかと思うとものすごい早さで私を抱き寄せ立ち上がった。
これはいわゆるお姫様だっこ!?

「け、食満先輩!?」
「全力で優しくする!」

そう宣言した食満先輩が真正のロリコンで、処女厨だという事を知った話はまた後日にしたいと思う。

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