最近、前にも増して鉢屋くんの嫉妬心が凄まじくてどうしていいか分からない。
そんな事をぽつりと友だちにもらした翌日、鉢屋くんが私の足元で地面に這いつくばって頭を下げていた。
…どういう事?

「あの、鉢屋くん?どうしたの?」
「き、昨日…」
「昨日?」
「私の事を友人と話していただろう…?」

顔を伏せたままぐず、と鼻声で言う鉢屋くんにまたくのたま長屋に侵入してたんだ、と呆れながらうんと返事をする。
天井裏に潜んでるかもとか考えちゃうと着替えも落ち着いてできないから止めてほしいなあ。
仕掛け増やして侵入出来ないようにしないと…。

「名前は私が嫌いなのか…?」
「どんな罠にしようかな…って、え?ごめん鉢屋くん、何か言った?」
「うっ、うわあああああ!やっぱり名前は私が嫌いなんだあああああ!!!」

ぶわわっと涙を流しながら走っていく鉢屋くんを見送って、はてと首を傾げる。
鉢屋くんなんて言ってたんだろう。
ていう相変わらず鉢屋くんは人の話聞かないな。
毎度ながら思い込みが激しすぎる。

この間だって図書室の本の話を不破くんに聞いてたら陰からじっとり見つめて歯をぎりぎり言わせてたし、その前には私と竹谷くんが虫について熱く語っていたら急に飛び出してきて「名前から離れろこの焼きそば!」とか掴みかかってたし、更にその前には尾浜くんと新しくできた甘味屋の話をしてたら「名前は私のものだこのうどん!」とか泣き叫んでたし、更に更にその前には久々知くんの落とし物を届けてたら「わざと名前の近くに落としたんだろこの豆腐!」って怒鳴ってたし。
同じ五年生でせっかく仲良しなのにあんな風にしてたらいずれは喧嘩になっちゃうんじゃないのかな…。
いや久々知くんは何か喜んでたみたいだけど。

「でもやっぱりよくないよね…」

とは言っても嫉妬するのは止めて!なんて言っても解決する問題じゃないと思うし、もし解決するとしたら私と鉢屋くんが付き合うとかしかないんじゃないだろうか。
それは嫌だ。
鉢屋くんは悪い人じゃないけど恋愛感情があるかと言われたら別だし。
普通にしてたらきっと格好いいんだろうけど、私あんな感じで暴走してる鉢屋くんしか見た事ないしなあ。

「うーん、どうにかならないかな…」
「名字さん?どうかしたの?」
「あ、不破くん!」
「おはよう。悩んでたみたいだけど、また三郎が何かしたの?」

…鉢屋くんって信用ないのかな。
まあ確かに最近私が悩んでる事の八割は鉢屋くん絡みだったりするんだけど…。

「えっと、実はさっきね、」

かくかくしかじか、さっきの鉢屋くんの様子や最近の事、また屋根裏に侵入してたらしい事を話せば不破くんはなるほど、と頷いた。

「三郎ならたぶんどこかで見てるだろうし、とりあえず名字さんおびき寄せて」
「お、おびき寄せる…?」
「名字さんが呼べば出てくるよ」
「えーと、は、鉢屋くーん?」
「名前!私を呼んだか!?この!お前の良い人!鉢屋三郎を!やはり私に恋い焦がれて片時も一瞬たりとも離れたくないと思ってくれていたのだな名前!いやいい、大丈夫だ!皆まで言わずとも分かっているぞ!お前が私の事を嫌う筈がないと知っていた!なあに、名前のツンデレなど百も承知だ少しも気にする事などない!」
「言いたい事はそれだけかい?」
「名前への愛がこれだけで語り尽くせる筈がないじゃないか雷蔵!」
「ああそうでも黙って」
「ぐはあっ!安定の雷蔵さま光臨オチ!」

あっ、鉢屋くんもこの状態の不破くんをさま付けで呼んでるんだ!
ちょっと親近感わくなあ。

「三郎、名字さんを好きでいるのは君の勝手だけどその気持ちを名字さんに押し付けたり周りに嫉妬心で暴言を浴びせるのは駄目だと何回言えば分かるの?」
「すごい!不破くんノンブレスだ!」
「…名字さん」
「あっすみませんでした!」

不破くんの仏のようなスマイルを向けられて、びくっとしながら謝る。
ひええ、不破さま怖いよ…!

「とにかく、名字さんの迷惑になるような行為は控える事!」
「い、いや、その、だが私と名前は!」
「名字さんと三郎はただの同級生!それ以外の関係はない!」
「…そ、そんな!」

不破くんの言ってる事は事実だけど、ここまでショックを受けてヘコむ鉢屋くんを見るとなんだか可哀想になってしまう。
絶望したー!と言わんばかりの顔でその場にへたり込まれたらまるで私と不破くんが悪い事をしてるみたいだ。

「う、うう…名前…」
「名字さん、同情は禁物だよ。三郎はすぐに調子に乗るんだから」
「…え、えっと、その、鉢屋くん、」

ぐず、と鼻をすすって鉢屋くんが私を見上げた。
その鉢屋くんの顔は涙と鼻水でべしょべしょになっていて、まるで子どもみたいなんて考えておかしくなってしまう。

「ふふ、」
「名前…?」
「あ、ごめんね。ええと、私ね、鉢屋くんの事をよく知らないから運命とか良い人とか言われても困るんだ」

何て言えばいいのか考えながらそう言えば鉢屋くんはぼたぼた涙をこぼす。
そんなに泣いたら変装が取れてしまうんじゃないか、なんて見当違いな心配をしつつ、私は鉢屋くんに手ぬぐいを差し出した。

「…あの、だからね、とりあえず友だちになるのはだめかな?」
「えっ!」
「…名字さん、いいの?」
「うん、ただし一つだけ条件があるんだけど」
「な、何だ!?」
「くのたま長屋に侵入するのだけは本当に止めて欲しいんだ。着替えとかもあるし…」

もちろん不破くんたちと話してる時に割って入られるのも困るけど、何より部屋を覗かれたり盗み聞きされるのが一番嫌だったりする。
不破くんたちには申し訳ないけど自分のプライバシーを守る方が先決だ。
それに鉢屋くんに会話の邪魔をしないでと言っても無理な気がする。

「どうかな?鉢屋くん」
「と、友だちに、なってくれるのか…?」
「うん、約束を守ってくれたら」
「…守る!守ります!絶対に破らないと誓う!」
「じゃあ、今日から私と鉢屋くんは友だちだね!」
「っ、ら、雷蔵…これって夢じゃないよな?」
「夢オチに一票」
「ひどい!」

そんな事を言いながらもにやにやうふうふしてる鉢屋くんをあしらいつつ、不破くんが本当にいいの?っていう感じの視線を送ってくる。
だけどまあ、友だちになったぐらいで突然何かが変わる訳じゃあるまいし、私はこくりと頷いた。

「それに鉢屋くんは竹谷くんの友だちだし。友だちの友だちは友だちって言うでしょ?」
「ああなるほど…三郎、良かったね。八左ヱ門のおこぼれで名字さんと友だちになれたんだよ」
「…私、今なら八左ヱ門にすごく優しく出来る気がする」

なんて幸せそうに微笑んだ鉢屋くんが数日後、竹谷くんに優しくし過ぎて気持ち悪がられるのはまた別の話。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -