「…えっと、あれ?」

はて、と首を傾げて私は目の前にいる男の人を見上げた。
男の人はちょっと青白い顔に独特のどんよりとした雰囲気をまとっていてなんだか怖い感じがする。
さらさらの長い髪が頬にかかっているせいで余計に薄暗い感じになってて…なんていうかまるで、そう、幽霊みたいだ。
その上ひょろっと背が高いせいで男の人を見上げてると少し首が痛いし。
うーん、何センチぐらいあるんだろう。

あ、ていうか、それよりも。
もしかしてこの場所って忍術学園なのかな。
部屋の感じが私の貸して貰ってた部屋と同じ気がする。
…何か前来たときに比べて物がいっぱい増えてるけど。

「あのー、えっと、ここは忍術学園ですか?」
「そう、です。忍術学園ですよ、名前さん」
「え?あ、私の事、知ってるんですか?」
「…分かりませんか?僕、伏木蔵です。鶴町伏木蔵です」
「伏木蔵くん…?え、でも伏木蔵くんは、」
「名前さんがこちらにきてからもう五年がたったんです。僕、もう六年生になったんですよ」

そう言った男の人…伏木蔵くんが小さく笑ってから私をじっと見る。
だけど私は自分より背の高い男の人が伏木蔵くんだなんてなかなか信じられない。

「ほんとに伏木蔵くんなの…?」
「はい。名前さんはあの日のまま、何も変わらないんですね。エキサイティングです〜」

うふふ、と伏木蔵くんの独特な笑い方が聞こえてきて、ああほんとにこの男の人は伏木蔵くんなんだと理解する。
それにしても私が前に忍術学園に来たのって1ヶ月ぐらい前の出来事なのに、こっちの世界だともう五年もたったなんてびっくりだ。
1ヶ月ぐらい前にはあんなに小さかった伏木蔵くんがもう六年生になってるんだもんなあ。

「ていうか伏木蔵くん、すっごく背が伸びたね」
「はい。あの時は名前さんがとっても大きく見えましたけど…」
「けど?」
「…いえ、うふふ、名前さんってかわいいですね」
「ええっ!?い、いきなりどうしたの!?」
「なんでもありません」

なんでもないって言いながら伏木蔵くんは楽しそうに笑ってるし、なんでもない筈がない。
だけどそれよりもこんな風に大きくなって男の子じゃなく男の人になっちゃった伏木蔵くんにかわいいなんて言われたらなんだか恥ずかしくなってくる。
伏木蔵くんすごく綺麗な顔立ちだし。
前に来た時に見た六年生の男の子も綺麗な顔だったけど伏木蔵くんだってそれに負けてない。
ただ相変わらず顔色悪いからなんとなく近寄り辛い感じだけど。
でも忍者なんだし、それぐらいでいいのかも。
親しみやすい忍者っておかしいもんね、たぶん。

「それにしても名前さんが会いに来てくれて良かった。来てくれなきゃ針千本飲まさないといけませんでしたから」
「う、うん…ほんと、伏木蔵くんが卒業する前に来れて良かったよ…」

うう、目が本気で怖いよ伏木蔵くん…!
ぶるぶる体を震わせながら何とか笑顔を浮かべたら伏木蔵くんはうふふと笑った。
あ、遊ばれてる!?
Sっぽく育ったね、伏木蔵くん…。

「何か失礼な事を考えてませんか?」
「か、考えてないよ!」
「ふうん…」
「考えてないよ!」
「へえ…」
「…はっ!また遊ばれてる!?」
「うふふ、ほんと名前さんってかわいいですね」

伏木蔵くんはそう言って嬉しそうに笑う。
うう、伏木蔵くんが美形過ぎてまともに見れない!
なんて、照れてたら伏木蔵くんはふっと目を細めて私の方に手を伸ばしてきた。

「…名前さん、手を握っていいですか?」
「手?」
「あの日はちゃんとした指切りが出来ませんでしたから」
「あ、」

伏木蔵くんに言われて自分の体を見ると体が透けてない事に気付く。
もしかして今回は透明じゃない、のかな。

「伏木蔵くん…」
「………」

名前を呼ぶと伏木蔵くんは何も言わずに頷いてそっと私の手に触れた。

「…やっと、名前さんと手を繋げました」
「うん」
「会いたかったです、名前さん」
「うん、私も」

五年も待っててくれてありがとう。
そんな気持ちを込めて伏木蔵くんの手を握れば伏木蔵くんも私の手を力強く握り返してくれるのだった。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -