「やあ名前ちゃん」

ワンピースに身を包んだ名前ちゃんに片手を挙げてそう言えば名前ちゃんはあんぐり口を開けて私を見る。
うん、期待通りの反応だ。
相も変わらず愛らしい様子の名前ちゃんに久しぶりだねと声をかけてやれば彼女は昆奈門さん?と確かめるように私の名前を呼んだ。

「元気にしてたかい?」

問いかけながら名前ちゃんに近付き、さり気なさを装って彼女の頭を撫でる。
さらりとした髪の感触を手に感じ、昔、あの時代では味わう事のなかったそれに自然と口元が緩んでいた。
ああ、ようやく触れられた。

「え、あ、あの、何で昆奈門さんが?ここ、平成ですよね?」
「もちろん。…君が会いに来てくれないから来てしまったよ」
「えええっ!?どうやって!?」

驚く名前ちゃんにあの時代で死に、この時代に記憶を持ったまま生まれた事を説明する。
ついでに今は探偵なんていう胡散臭い仕事をしている事も。
名前ちゃんはすごい!なんて言って目を丸くしているけど感心してる場合じゃないでしょと突っ込みたい。
私がここにいるという事はその仕事を生かして名前ちゃんの個人情報を勝手に調べたという事なんだから。
まあ自分からそんな事を言う気はないから黙秘させてもらおう。
名前ちゃんは気付いていないようだし知らぬが仏という言葉もある。

「ところで名前ちゃんは今からお出かけ?」
「ちょっとお使いに出るところなんです」
「そう、じゃあ私も一緒に行こうかな」
「はい、行きましょう!」

警戒心の欠片もない様子にむしろ心配になりながら並んで歩き出す。
かつて戦の世を生きていた頃には先の時代に生まれた人間はこんなにも呑気なものかと呆れすら抱いたが、この時代に自分自身が生まれてから彼女が例外なのだと悟った。
あの時代程ではないにしろ殺人や強姦なんて事件は現代日本でもそこら中に転がっている。
だというのに名前ちゃんのこの呑気さは飛び抜けているとしか思えない。
どう考えた所で私など不審者でしかないというのにすんなり受け入れているのだ。
その不用心さでいつか手痛い目に合うのは想像に難くない。

「…心配だよ」
「え?何がですか?」
「名前ちゃん、君は私に騙されてるとかは考えないのかな?」
「昆奈門さんが?」

きょとんと幼げな顔をして名前ちゃんは私の言葉に首を傾げる。
けれどそれも一瞬の事で彼女はすぐにふふ、と笑みをこぼした。

「昆奈門さんが私を騙したりするわけないじゃないですか」

まっすぐな言葉と信頼しきった笑顔を向けられて黙り込む。
まったく、この私が虚を突かれるとは…名前ちゃんは案外くのいちに向いているかもしれない。

「…名前ちゃんはこう、上手く男心をなぶってくれるよねえ…」
「お、男心ですか?」
「うん、おじさんは白旗を挙げるしかないようだ」

ひらひらと両手をあげれば名前ちゃんははあ、と曖昧な返事をする。
やはり分かっていない様子に愛らしい事だと笑みをこぼして思考を巡らせた。

さて、これからどうしたものか。

接触を図るのは思いの外簡単にできた。
名前ちゃんがまだあの世界へ行っていない可能性を考慮し、彼女があそこへ来た時の年齢を越えるまで待った甲斐もあって私を知らないという事もなかった。
ここまではすべて順調。
あとは…

「あっ、昆奈門さん!携帯の番号とか教えて下さい!」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます!えへへ、これからはまた会えますね!」

…まあ、ゆっくり行けばいいか。
時間はまだたっぷりあって名前ちゃんと会う機会はいくらでも作れる。
どう転んでも最終的に名前ちゃんが私の所へやってくるよう外から埋めていくのも悪くない。
名前ちゃんとのこれからに思いを馳せるとにんまり弧を描く唇を自覚しつつ、とりあえず今は隣に名前ちゃんがいる状況に充足感を得るのだった。

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