「潮江先生…山本シナ先生とお付き合いしてるというのは本当ですか…?」

じろりと睨みつけてやれば潮江先生ははあ!?と大声を上げて目を見開いた。
相変わらずのオーバーリアクションだなあ。
なんて見当違いな事を考えながら潮江先生に浮気ですかと冷たい声を浴びせる。
そうすれば潮江先生は疑問符だらけの顔を一変させてバカタレ!と口癖を口にした。

「俺がそんな不実な男だと思うか!」
「でもネタは上がってるんですよ。昨日山本先生と夜に二人で会っていたでしょう」
「な、それは夜間の見回りの為で…いや、何故お前がそんな事を知っている?まさかあんな時間にフラフラ出歩いてたのか!?」
「話をすり替えるなんて怪しい!」

あえて潮江先生の言葉を無視してそう言えば潮江先生はまたもはあ!?とオーバーリアクション。
さてさて楽しくなってまいりました。
内心にやにやしながら両手で顔を覆ってううっなんて泣き真似をしてやれば潮江先生はもはや形無しだ。
生徒間では怖いだの鬼だの言われているけれど、潮江先生はその実もの凄く優しい人なのである。
しかも相当女慣れしていないらしくとにかく女の涙というのに弱い。
ちょっとでも涙を見せるとどれだけ怒っていても一瞬で体を硬直させて無言になり手が中途半端に上がったり下がったりする。
慰め方が分からず困りきった表情を浮かべて落ち着け、泣くな、とそればかり繰り返す。
…なんというか、意外とかわいい人だと私は思う。

そもそも潮江先生と私が教師と生徒で恋人同士なんていう禁断の関係になったのは泣いている私を潮江先生がそんな調子で慰めてくれたからだった。
潮江先生の不器用な優しさについ笑って、そんな私にほっとしたような表情を浮かべた先生に私は心を奪われてしまったのだった。
それからはそれまで近寄りもしなかった社会科準備室に入り浸り、潮江先生に猛アタックを繰り返す事だいたい一年半…ようやく潮江先生は顔を真っ赤にしながらまいったと言ってくれたのである。
あの時の潮江先生かわいかったなあ…。
思い出しながらほわわんとしていると潮江先生がもう泣くな、と必死に言っている声が耳に飛び込んできてはっとする。
そうだった、今は思い出を振り返ってる時じゃなかった。

「潮江先生はどうせ山本先生みたいな大人の女の方がいいんですよね」
「そんな訳、」
「いいんです。どうせ私なんて子どもですから…潮江先生の気持ちが変わっても仕方ないですよね…」

ぐずり、鼻をすするような声を出せば潮江先生はいやだから違う、と慌てまくる。
うん、もう一息だ。

「潮江先生が私と別れたいなら大人しく身を引きます…今までありがとうございました」
「なっ、バカタレ!自己完結するんじゃない!」
「だって、」
「だっても何もあるか!」

私を叱りつける潮江先生の声にそろりと顔を上げてみればもの凄く険しい顔がそこにある。
よしよし、ここまでくれば私の思惑通り。
この勢いでキスしてと言えばしてくれるに違いない。
潮江先生は私が未成年なせいで手を出すのにためらいがあるらしい。
私としてはキスやそれ以上の事だってばっち来い!なんだけど。
まあとにかくそんな訳で今回のこの浮気騒動は潮江先生に勢いをつけて頂く為の作戦だったりするのだ。

「潮江先生、私…」
「名字、聞け。俺はお前を愛している。お前以外に興味などない」
「えっ」
「意外に思うほど俺は言葉が足りなかったか?不安にさせて悪かった。お前と別れるなんて考えられん。俺から離れないでくれ」

普段なら絶対に言わないような言葉を口にして潮江先生が私を引き寄せて抱きしめる。
そもそも潮江先生は私に触れる事さえためらっていて、物を渡す時にちょっと指先が触れるのにすらびくっとしているから私は抱きしめられるのも初めてだったりする。
どうしよう、心臓が爆発しそうだ。

「名字…」
「は、はひ…」
「愛している」

少し体を離した状態で情熱的な目で見つめられ、ゆっくり近付いて来る潮江先生の顔に私はもうパニックになる。
え、え、まさかキスするの?
そんな、いきなりそんな事…。
焦っている内に潮江先生の顔は目の前になっていてがちりと体が固くなる。
ついに、私、潮江先生とキスを…

「…名字」
「はいい!?」
「これに懲りたら泣き真似なんかするんじゃない」
「えっ!?」

唇がくっつく、そう思って目をぎゅっと閉じた瞬間言われた言葉に慌てて目を開くと潮江先生の顔はすでに離れて仕方ないな、って顔で笑っていた。
ええっと、これはつまり…?

「か、からかったんですか!?」
「からかった訳じゃない。お前があんなにガチガチになってなかったらキスぐらいするつもりだった」
「うっ、で、でもあんな風にあ、あ、愛しているとか言ったりして!」
「本心だ」
「っ…!」

優しく笑いながらよしよしと頭を撫でる潮江先生からは女慣れしてないいつもの姿はまったく感じられない。
大人の余裕というやつを感じる。

「…せ、先生のむっつりすけべ!」
「はあ!?」

苦し紛れに放った言葉にやっぱりオーバーリアクションをする潮江先生のいつもの姿にほっとしながら、私は次こそキスしてもらおうと新たな作戦を立て始めるのだった。

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