「えっ、あれっ、透けてない…?」

半透明になってはや2週間、透明状態にもようやくなれてきたある日、なんでか分からないけど私の体は透明じゃなくなっていた。
向こう側が透けて見えないし朝一番にやってきた伏木蔵くんに触る事もできる。
本当に普通の何てことのない体になっていたのだ!

「何でなのか分からないけど伏木蔵くんと手を繋げるの嬉しいなあ」
「ええ、僕も嬉しいです〜」
「伏木蔵くんの手ってちょっと冷たいね」
「名前さんの手は暖かいですね」

なんて二人でしばらくほのぼのしてから伏木蔵くんと別れた私の前にしゅたっと天井から昆奈門さんが落ちてきたのはそのすぐあとの事だった。
いきなりの登場にびくっとなったけど、そんな事よりもっと驚きな事が昆奈門さんの体に起きていた。
昆奈門さんの体がいつもの私と同じ半透明になってたのだ。

「ど、どうしたんですか昆奈門さん!体が透けてますよ!?」
「朝起きたらこうなっていてね。しかし驚いたな。まさか名前ちゃんは逆に透明じゃなくなってるとは」
「私も朝起きたらこうなってたんですよ」
「ふうん、神様の悪戯というやつかな」

昆奈門さん、楽しそうに笑ってるけどお仕事とか大丈夫なのかな。
私は仕事なんてないし半透明でもとりあえずは問題なかったけど、昆奈門さんはお城の忍者をまとめる立場の人なんだし…もしこのままだったら大変な事になる気がする。
最悪の場合、お城をクビになっちゃったりして…。
そしたら昆奈門さんは無職になって、なかなか新しい就職先が見つからなくて苦しい思いをして、段々そんな状況が辛くなってうつ病になって、ますます働けなくなっていって、そのうち人生を諦め始めて…

「し、死なないでください昆奈門さん!」
「…名前ちゃんの思考回路には複雑怪奇という言葉がぴったりだね」
「だ、だって!」
「何を心配しているか分からないけど今のところ死ぬ予定は立っていないよ」
「本当ですか…?何かあったら絶対に相談して下さいね?」

一人で悩まないで!と強く言えば昆奈門さんはちょっと呆れたような顔ではいはいと投げやりに答えてくれた。
…ううん、心配だなあ。

「ところで名前ちゃん」
「はい、何ですか?」
「ちょっと触ってもいいかな?」
「? どうぞ」

私が頷くと昆奈門さんはぐぐぐっと私の方に近寄って、それから失礼、なんて言ってから私の頬にゆっくり手を伸ばした。
昆奈門さんの半透明な手が私の頬に触れた…と思ったけどやはりというかなんというか、まるでそこに何もないみたいに昆奈門さんの手は私の顔をすり抜けていく。

「…予想はしてたけど触れないようだね」
「はい。あ、でもいつもの半透明状態なら透明どうし触れたかもしれないですね」
「そうだねえ。…残念だ」

しみじみそう言って昆奈門さんは自分の手をじっと見つめる。
私もそんな昆奈門さんにつられるみたいにその手を見ていたら昆奈門さんは実に残念だなあともう一度呟いた。
ううん、なんでまた私にそんな触ってみたかったんだろう。
別に透明じゃなければ普通と変わらないと思うんだけどなあ。
昆奈門さんだって自分が今透明なんだからいつもと変わらないって分かると思うんだけど…。

うーん、それにしてもなんで昆奈門さんは半透明になっちゃったんだろう。
朝起きたら透明って…さすがの昆奈門さんでもかなりびっくりしただろうな。
私も気付いたら透明だったからその気持ち、よーく分かる。
それに今回も気付いたら透明じゃなくなってたし、普通に戻っただけなんだけどすっごく驚いたんだよなあ…。

「…昆奈門さん、私で良ければ相談に乗りますからね!私も元透明だし、昆奈門さんの気持ちは分かりますから!」
「ありがとう。まあなんとなく名前ちゃんも私もこの状態は今日一日だけで明日には戻る気がするけどね」
「え?何でですか?」
「勘だよ、勘」

にやっと笑う昆奈門さんにはあそうですかと返しつつ、私もなんとなくそうなんじゃないかなあなんて思う。
根拠なんてないけど間違いなくそうだと感じるのだ。
…あ、という事は。

「…昆奈門さん」
「ん?」
「あした二人とも元に戻っちゃったら昆奈門さんと手を繋いだりはできないんですね」
「そうなるね」
「…それって、すっごく残念です」

今日、伏木蔵くんと手を繋げてすごく嬉しかったのに昆奈門さんとはそれができないんだと思うとなんだか悲しい。
伏木蔵くんが昆奈門さんの手はおっきいんですよと言ってたのを思い出しながら昆奈門さんの手をじっと見る。

「…手、繋いでみたかったな」
「………君の、」
「はい?」
「君のそういうところに腹立たしさすら感じる事がある」
「えっ!?す、すみません…!」
「だけど、嬉しいよ」

ありがとう、と小さく笑いながら昆奈門さんは自分の透明の手を私の手に重ねた。

「今回は残念だけどいつかきっと手を繋ごう」
「…できますかね?」
「出来るよ。…勘だけど」

にやりと笑った昆奈門さんに私も笑顔を返して二人で笑い合う。
重なり合った手はもちろん触った感触なんてなかったけど、それでもその重なったところは少しだけあったかいような気がするのだった。

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