「名前、想像通り…いや、それ以上によく似合っている」
「はあ…」
「何だ随分と暗い顔だな。気に入らなかったか?」
「いや、うん…素敵だとは思うんだけど…」

思うが、これは如何なものだろう。
私を褒めるにこやかな立花とは対照的に思い悩む私の表情は暗い。
何故なら私の髪に挿されている、やたらと高級そうな簪が立花から贈られた物だからだ。
この時代の装飾品の価値なんてよく分からないけど、この簪の細工はとても細かいしはめ込まれた赤い鉱石も透き通っていて陽をよく反射している。
一目で高いのだろうなと予想がつくそれを立花から受け取ったと他に知られたら…そう、それはつまりデッドエンドまっしぐら。
立花ぐらい顔の整った忍たまなら夢主の一人や二人引っ掛けていてもおかしくないし、そうなれば私は悲惨な最後を迎える羽目になるかもしれない。
そんな想像でぞっとして、簪を髪から素早く抜き取り箱に戻す。
立花が整えてくれた髪も乱れてしまったが仕方ない。
優勢するべきは死亡フラグをへし折るという事だ。

「名前…?」

不思議そうな顔で私を見る立花には申し訳ないがこれは返却させていただこう。
立花なら女装する時にでも上手く活用するだろうし、手元に戻っても使い道はある筈だ。

「ごめん、受け取れない」
「…それは何故?」
「何故って…立花くんからこんな高そうな簪を貰う理由がないし」
「私が名前に贈り物をしたい。ただそれだけの事だ」

眉をひそめて悲しげにそんな事を言う立花のなんとイケメンな事か。
これが天女補正なんかじゃなく本気だったら私は間違いなく受け取ってお付き合いをしていただろう。
でもこれは天女補正といういらんチート能力によるセリフだ。
流される訳にはいかない。

「付き合ってもないのにおかしいでしょ」
「なら私と恋仲になるか?」
「なりません」
「冷たいな。…私は本気だ。本気でお前を好いている」

目を細め、うっそりと微笑む立花の言葉にぶわっと体が熱くなる。
くっ、このイケメンめ…!
お前が本気だと思ってるそれは洗脳なんだからな!
いつかこんなこっぱずかしい事を私なんかに言った事を後悔するんだからなー!
ぎりぎりと歯をかみしめて心の中でそんな事を考えつつ、あからさまなため息を吐いてみせる。

「あのねえ、悪いけど私は立花くんの事をなんとも思ってないの」
「本当に?」
「本当に!」
「ほう…そうか。では何をされても意識したりはしないという事だな」

私の強い拒否なんて知らないとばかりに楽しそうに笑って、立花はそろりと指先を私の頬に這わせる。
予想していなかったその接触にぴくりと体が揺れて舌打ちしたい気分になった。
こんなイケメンが自分に見つめられながら触られるなんて経験が私にある訳がないし、当然そうなれば意識しない筈がない。

「…やめて」
「何故?意識などしないのだろう?」
「普通、恋仲じゃない相手にこんな風に触れられたら嫌でしょう」
「嫌がっているようには見えないが」

ふ、と意地の悪い笑みを浮かべた立花のなんと楽しそうな事か。
しかもその顔が本当にイケメンなのが腹立たしい。

「…ふふ、」
「な、何…?」
「意地悪をし過ぎて嫌われてはかなわないからな。この辺りでからかうのは止めておこう」

その言葉通り、立花のほっそりとした白い指が私の頬をひと撫でして離れていく。
美しいとしか言いようのないその動作に思わず見惚れてしまう。
男の指とは思えない程しなやかなそれはまるで芸術品だ。
羨ましい。

「…そんなに熱心に私の指を見て…もっと触れて欲しかったのか?」
「なっ、はあ!?そんな訳ないでしょ!」
「ふふふ、それではそういう事にしておこうか」

余裕の態度でそう言って立花は私の髪にやんわり触れる。

「この髪を私の贈った簪がいつでも彩る事を願っている」

…なっ、なんという心臓クラッシャー…!
衝撃でなんも言えねえ状態の私を余所に、立花はじゃあまた、と思いのほかあっさり立ち去って行く。
対する私はといえばあまりにもこっぱずかしい立花の言動に頭を抱え、結局返すタイミングを失った簪を握りしめてうなだれるのであった。

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